進まぬカネミ油症事件の救済「不合理」を訴える記録映画製作中の稲塚監督が長崎新聞の取材に応じました。以下、その記事(HP:2023.5.3)の転載です。
カネミ油症事件の被害者や関係者を追った記録映画の撮影を、東京の映画監督稲塚秀孝さん(72)が進めている。2024年秋ごろの公開を目指しており、「今なお続く油症問題の真相を、映像を通して訴えていきたい」と語る。
同事件は1968年に発覚。ダイオキシン類など有害化学物質が混入した食用米ぬか油を食べた人が、吹き出物などの皮膚症状や内臓疾患などを発症。被害者は本県に多く、子や孫への健康被害も指摘されている。
稲塚さんはこれまで、長崎と広島の二重被爆者を追ったドキュメンタリーや、福島県の原発事故の被災者などをテーマにした映画を手がけてきた。2018年、事件発覚から50年たっても続く健康被害など油症問題の現状を聞き、翌年から記録映画の製作を開始。新型コロナ禍での中断を経て、本県や福岡、関西の被害者やその子どもら約10人と関係者を取材している。映画のタイトルは「カネミ油症の記憶と記録」(仮題)。
「被害者は何重にも苦しめられてきた」とする稲塚さん。深刻な症状や差別、将来への不安、認定と未認定の患者に分けられ十分な医療費補償を受けていない実態なども聞き取ってきた。4月24日は、五島市奈留町の被害者で、生後4カ月の長男を亡くした岩村定子さん(73)宅を訪問。母親として次世代被害者の救済を願う切実な思いを語ってもらい、映像で収録した。
映画は90分前後で、関係者の証言やドラマなどで構成する予定。油症認定の厳しい基準や次世代被害など今も直面する課題に注目しながら、「救済のために積極的に被害者と向き合ってこなかった国の姿勢を問う」。さらに別の被害者の証言も記録したい考え。全国油症治療研究班(事務局・九州大)が実施している次世代被害者に特化した調査の進展もにらみながら製作を進める。
稲塚さんは「カネミ油症という負の遺産を過去のこととして終わらせてはいけない」と指摘。さまざまな角度から問題を見つめ直す方針で、「救済が進まないことへの被害者のもどかしさを訴え、その不合理さを浮き彫りにしたい。なぜ半世紀以上たっても苦しみ続けるのか、映画を見て何ができるか考えてもらいたい」と話す。