
聴覚情報処理障害(APD)の患者数が急激に増えています。潜在的な患者含めると、何とその患者数は300万人とも言われています。実は、私もその患者でありまして、この症状の気づきは高校生になります。大変違和感がありましたが、「これが自分なんだ」と、これまで半世紀を過ごしてきました。一昨年、この病気のドクターが開催した講演会と当事者とのトークイベントに出席した事により、その病気であった事の確証を得ました。当日は当事者の方とお話もしましたが、まさしく同じ経験をされながら生活を送られています。現在、このドクターへの受診は3か月以上の予約待ちとお聞きしました。

聴覚情報処理障害(APD)とは?
聴覚情報処理障害(APD:Auditory Processing Disorder)は、耳の聴力自体には問題がないにもかかわらず、音(特に言葉)の処理や理解に困難を感じる障害です。具体的には、以下のような症状があります。
- 雑音が多い環境では会話が聞き取りづらい
- 早口や小さな声が理解しにくい
- 似た音の区別がつきにくい(例:「さ」と「た」、「パ」と「バ」)
- 指示を一度で理解するのが難しい(特に長い指示)
- 文字を読むより聞くほうが疲れる
APDは知能や学力とは関係がなく、環境や状況によって困難の程度が変わることが特徴です。そのため、周囲に理解されにくいことが多く、「聞いていない」「注意力が足りない」と誤解されがちです。

APD患者が増えている理由とは?
APDの認知度が上がり、診断されるケースが増えていることも一因ですが、それに加えて以下のような要因が考えられます。
① デジタル環境の影響
近年、子どもから大人までスマホやタブレットの使用時間が増加し、会話や音声による情報処理の機会が減っている可能性があります。
特に、動画視聴の増加によって「文字で補助される情報」に依存しがちになり、聴覚情報だけでの処理能力が育ちにくいという指摘もあります。
② マスク社会の影響(コロナ禍以降)
マスクの着用により口元が見えない状態が続いたことは、特にAPD傾向のある人にとって厳しい環境でした。
通常、人は口の動きや表情をヒントにして音を理解しますが、それができない状況が長引いたため、「聞き取りづらさ」に気づく人が増えたのかもしれません。

③ 騒音の多い環境での生活
都市部では、カフェ、職場、交通機関などのBGMや環境音が増えていることも関係するかもしれません。APDの方にとって、複数の音が重なる環境は情報の処理を難しくするため、「聞こえているけど、意味が分からない」状態が生じやすくなります。
④ ストレスや過労による影響
過度なストレスや疲労は、脳の情報処理能力を低下させることが分かっています。現代社会では多くの人が仕事や生活のプレッシャーを抱えており、特に働き盛りの世代や学生において、APDの症状が顕在化しやすくなっている可能性があります。

私見:APDと社会の関係性について
私自身も半世紀以上、この症状と向き合いながら過ごしてきた訳なのですが、最近になって診断が増えていることについて、私は「APDが増えた」のではなく、「気づく人が増えた」のではないかと考えています。
以前は、「聞き取りにくさ」は個人の能力の問題とされ、障害とは認識されにくかった。しかし、今は情報が広がり、共感できる体験談を共有できる場が増えたことで、ようやく「これが自分なんだ」と確信を持つ人が増えているのでしょう。

APDのある人が生きやすい社会にするには?
- 「聞こえていない」のではなく、「処理しづらい」だけと周囲が理解する
- 字幕や文字情報の充実(例:会議の音声文字起こし、授業のスライド活用)
- 話し方の工夫(ゆっくり話す、短く区切る)
- 聴覚処理の負担を減らす環境づくり(静かなスペースの確保)

APDのある方々がより暮らしやすい環境を作ることは、結果的に社会全体の「聞く力」や「伝える力」を高めることにつながると思います。あなたの周囲にもきっと居られると思いますので、どうかこの障害を理解いただき、ご対応いただく事をお願い申し上げます。その方達は生きずらさを感じているはずです。