最近の研究で「高LDLコレステロール値」と「視力低下」が認知症のリスク因子として注目されています。
高LDLコレステロール値と認知症の関
筑波大学の研究チームは、約180万人を最大23年間追跡した英国の医療ビッグデータを解析し、LDLコレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)の高値が認知症のリスクを上昇させる可能性を示しました。特に中年期(40~64歳)におけるLDLコレステロール高値が、10年以上経過した後のアルツハイマー病発症に影響を及ぼすことが明らかになっています。また、2023年5月のデンマークの研究では、高いHDLコレステロール(「善玉コレステロール」)がアルツハイマー型認知症の発症リスクを増加させる可能性が示唆されました。この研究では、約3万9,000人の参加者を対象に、HDLコレステロールと認知症リスクの関連が調査されたとの報告です。
視力低下と認知症の関連
視力障害がある高齢者は、認知症の発症リスクが高まることが指摘されています。世界5大医学雑誌の一つである『ランセット』の報告によれば、視力障害は修正可能な認知症リスク因子の一つとして新たに加えられ、その寄与割合は全体の2%とされています。視力低下により外部からの情報が減少し、脳への刺激が少なくなることで認知機能が低下する可能性があります。
参考→鳥取県公式サイト
さらに、視力障害がある高齢者は、視力が正常な人に比べて認知症になる可能性が35%高いとする研究結果も報告されています。視力低下は社会的孤立や活動量の減少を招き、これが認知機能の低下につながると考えられています。
一方、高コレステロールは、脳の血管に脂肪沈着物が蓄積する一因となる可能性があると発表されています。これは、閉塞、血流の減少、さらには脳細胞の損傷につながる可能性があり、これらはすべて認知症のリスクを高めると、リスク因子の中に新たに加えられました。
これらの研究は、LDLコレステロール値の管理や視力の維持が、認知症予防において重要であることを示唆しています。定期的な健康診断や適切な治療、生活習慣の改善を通じて、これらのリスク因子に対処することが推奨されます。
ここで他の認知症を予防する因子とメカニズムを書きます。
- 身体活動
因子: 定期的な運動
メカニズム:有酸素運動は脳の血流を促進し、ニューロンの健康を支えるBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を増加させます。運動は神経炎症の軽減や酸化ストレスの低下にも寄与します。心血管リスクを低下させ、脳血管性認知症のリスクを減らします。 - 認知活動
因子: 読書、パズル、音楽演奏などの知的活動
メカニズム:認知的リザーブ(脳が損傷に対して代償機能を発揮する能力)を構築します。新しいスキルの習得や課題への取り組みはシナプス形成を促し、脳のプラスチック性を向上させます。 - 社会的活動
因子: 他者との交流やコミュニティ参加
メカニズム:孤立は慢性ストレスやうつ病を引き起こし、認知症リスクを高めます。社会的つながりはストレスホルモンの抑制や情緒の安定に寄与します。 - 健康的な食事
因子: 地中海食、DASH食(高血圧予防食)
メカニズム:抗酸化物質(ビタミンEやポリフェノールなど)や抗炎症作用を持つ食品は神経細胞を保護します。DHAやEPAを含む魚油は神経細胞膜の健康を維持し、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があります。
- 良好な睡眠
因子: 質の高い睡眠と規則正しい睡眠パターン
メカニズム:深い睡眠中に脳は老廃物(特にアミロイドβ)を排出するメカニズムを持っています。慢性的な睡眠不足はアミロイドβの蓄積を促進し、アルツハイマー病リスクを高めます。
- 慢性疾患の管理
因子: 高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症のコントロール
メカニズム:血管の健康が脳への酸素供給を維持し、脳血管性疾患を予防します。血糖値の安定化はインスリン抵抗性を防ぎ、脳のインスリンシグナル障害を軽減します。
- 禁煙・節酒
因子: 喫煙の中止と適度な飲酒
メカニズム:喫煙は脳血流の低下や酸化ストレスを引き起こし、認知症リスクを高めます。適度な飲酒(特に赤ワインのポリフェノール)は保護的な可能性がありますが、過度な飲酒は逆効果です。
- ストレス管理
因子: 瞑想、ヨガ、リラクゼーション
メカニズム:慢性的なストレスはコルチゾール過剰分泌を引き起こし、記憶に関与する海馬を萎縮させます。ストレス管理は脳の健康を保つのに役立ちます。
- 学歴と教育
因子: 若年期の教育機会と生涯学習
メカニズム:高い学歴は認知的リザーブを形成し、神経変性の影響を軽減します。生涯学習は脳のネットワークを強化します。
- 予防的医療と定期検診
因子: 聴覚障害の治療や頭部外傷の予防
メカニズム:聴覚障害は社会的孤立を招き、認知症リスクを増加させます。補聴器の使用はこのリスクを軽減します。頭部外傷は認知症リスク因子の一つとされるため、適切な保護策が必要です。
総合的な取り組み
複数の因子を組み合わせた予防策(例:健康的なライフスタイルと認知活動の併用)は、相乗効果を生み出す可能性があります。例えば、地中海食を取り入れた生活と定期的な運動、ストレス管理を組み合わせることで、全体的なリスクをより効果的に軽減できるとされています。