
先日、当団体のイベントの中で「聴覚情報処理障害(APD)」について、参加者の皆さまに少しお話しをいたしました。
お話しした後、「初めて知った」「自分にも当てはまるかもしれない」「もっと詳しく知りたい」という声を複数いただきました。
APDは、決して珍しいにもかかわらず、社会的な認知がまだ十分とは言えない障害です。しかも外見からは分かりにくく、「気のせい」「集中力が足りない」「聞いていないだけ」と誤解されやすい特徴を持っています。私もこの病気を抱えている一人です。
本団体はこちらにおいて何度もご紹介いたしておりますが再度、APDとはどのようなものなのか、症状や背景、潜在患者数の考え方、そして患者さんとの接し方や社会との関わり方について書かせていただきます。

●聞き取り困難/聴覚情報処理障害(LiD/APD)とは何か
「通常の耳鼻科で行われる聴力検査では異常がみられないにもかかわらず、日常生活において聞きとりの困難さを有する症状」とされています。
以前までは脳の中枢聴覚路において何らかの問題がある為に生じると考えられていた為、聴覚情報処理障害( Auditory Processing Disorder=APD) と呼ばれていましたがその後の研究の進展などにより、脳全体の様々な機能が関係しているとの考えが提唱され、聞き取り困難(Listening Difficulties=LiD)という名称の方がより適切なのではないかという議論が提起されています。
日本国内でも現在議論されている事もあり、現時点では両方の名称を併記されています。

主な症状
症状は人によって幅がありますが、代表的なものとして次のような例が挙げられます。
- 周囲が騒がしいと、会話の内容がほとんど聞き取れない
- 複数人での会話になると、誰が何を言っているのか分からなくなる
- 早口や滑舌の個人差がある話し方が極端に聞き取りづらい
- 電話やインターホン、院内放送などが特に苦手
- 「え?」と聞き返すことが多いが、繰り返されると分かることがある
- 口頭指示よりも、文字で書いてもらった方が理解しやすい
これらの症状は、本人の努力不足や性格の問題ではありません。
脳の情報処理の特性によるものであり、本人にとっては日常生活の中で大きなストレスとなります。

「聞こえているのに分からない」という苦しさ
当事者が特につらいと感じるのは、「聞こえているのに、分からない」という状態を理解してもらえないことです。
「ちゃんと聞いて」「集中すれば分かるでしょ」「さっき説明したよね」
こうした言葉は、悪気なく投げかけられることが多い一方で、当事者の心を深く傷つける場合があります。
本人は真剣に聞こうとしています。それでも情報がうまく処理できない。その結果、自信を失い、会話を避けるようになったり、人との関わり自体を減らしてしまうケースも少なくありません。

本邦における潜在患者数について
LiD/APDについては、現時点で日本における明確な全国統計は存在していません。
しかし、海外の研究や臨床報告などを踏まえると、人口の数%程度が何らかの聴覚情報処理の困難を抱えている可能性があると考えられています。
仮に日本の人口規模に当てはめると、数十万人から、場合によってはそれ以上の人がLiD/APDの特性を持って生活している可能性があります。
潜在的患者数は300万人ともいわれています。
ただし、診断体制や認知の不足により、「診断に至っていない」「別の問題として扱われている」人が多いのが実情です。

医療機関や社会で起きやすい課題
LiD/APDの困難は、特に医療機関や公共の場で顕著になります。
- マスク着用により口元が見えず、聞き取りがさらに困難になる
- 窓口で早口・小声・専門用語が重なる
- 名前を呼ばれても気づきにくい
- 重要な説明が口頭のみで行われる
これらは、当事者にとって「理解できなかった自分が悪い」と感じやすい状況を生み出します。しかし本来は、環境側の工夫で軽減できる問題でもあります。

LiD/APDのある方との接し方のポイント
APD/LiDの方と接する際に、特別な知識や高度な対応が必要なわけではありません。
いくつかの配慮だけで、コミュニケーションは大きく改善します。
- できるだけ静かな環境で話す
- 相手の正面を向いて、ゆっくり話す
- 一度に多くの情報を伝えない
- 重要な内容は文字でも補足する
- 「分かりましたか?」ではなく「どの部分まで伝わりましたか?」と確認する
これらは、LiD/APDの方に限らず、多くの人にとって「分かりやすい伝え方」でもあります。

社会との交わり方を考える
LiD/APDは「治す・治らない」という単純な話ではありません。
大切なのは、本人の特性を理解し、環境や伝え方を少し調整することです。
社会は、無意識のうちに「聞いて理解できること」を前提に作られています。しかし、その前提から少し外れる人が確実に存在します。
その存在に気づき、想像力を持つことが、誰にとっても生きやすい社会につながります。

最後に・・・
LiD/APDは、決して特別な人だけの話ではありません。
「聞きづらさ」「伝わらなさ」に悩んでいる人は、私たちのすぐそばにいます。
理解することは、同情することではありません。
相手の立場を想像し、伝え方を工夫すること。それだけで、孤立や誤解を減らすことができます。
当団体としても、今後こうした「見えにくい困難」に光を当て、社会との橋渡しとなる活動を続けていきたいと考えています。
