~SNSの向こう側ではなく、「昨日の自分」を見るために~

夜、ベッドに入ってから、何となくスマートフォンを開く。

ほんの少しだけSNSを見るつもりだった。

ところが、友人の旅行写真が目に入る。
同年代の誰かが昇進したという投稿が流れてくる。
結婚、出産、起業、資格取得、趣味の充実――。

「みんな、ちゃんとしているな」

そう思った次の瞬間、

「それに比べて、自分は何をしているんだろう」

そんな気持ちになっている。

さっきまで、それなりに穏やかだったはずなのに、急に自分の人生だけが遅れているように感じる。

スマートフォンを閉じても、その感覚が残ってしまう。

「もっと頑張らなければいけないのかな」

そんなことを考えながら眠りにつく。

もし、こんな夜があるのなら、あなたは決して特別ではありません。

今の時代、「他人と比べて落ち込む」ことは、誰にでも起こり得る、とても身近な心の動きだからです。

では、なぜ私たちは、こんなにも人と比べてしまうのでしょうか。


人は、他人と比べることで自分を知ろうとする

「人と比べるのはやめましょう」

よく聞く言葉です。

けれど、実際には、人は簡単に「比較しない人」にはなれません。

心理学には「社会的比較」という考え方があります。

人は、自分の能力や状況を知るために、他人を一つの基準として使うことがあります。

例えば、

「あの人は仕事ができる。自分も頑張ろう」

「同じような環境なのに、あの人は新しいことに挑戦している。自分もやってみよう」

こうした比較は、自分を成長させるきっかけになります。

自分より優れていると思う人との比較は、**「上方比較」**と呼ばれます。

一方、

「あの人も大変なんだ。自分だけが苦しいわけではない」

と感じることもあります。

こちらは**「下方比較」**です。

つまり、比較そのものが悪いわけではありません。

問題は、

比較した結果、自分を成長させているのか。
それとも、自分を傷つけているのか。

そこにあります。


SNSでは、「他人のハイライト」と自分を比べてしまう

特に注意したいのがSNSです。

SNSには、人生の「いい場面」がたくさん流れてきます。

旅行に行った。
美味しいものを食べた。
仕事で成功した。
家族と楽しく過ごした。
新しいことに挑戦した。

もちろん、それらは本当の出来事でしょう。

しかし、その人にも、失敗した日があります。

人間関係に疲れた日もあるでしょう。

将来が不安になった夜もある。

自信をなくした日もある。

でも、それらはSNSには、ほとんど登場しません。

つまり私たちは時に、

他人の「ハイライト」と、自分の「舞台裏」を比べているのです。

他人の一番輝いている瞬間を見ながら、自分については、失敗も悩みも不安も含めて全部を知っている。

それでは、自分のほうが劣っているように感じてしまうのも無理はありません。

だから、SNSを見て落ち込んだときには、こう思い出してください。

「私は今、その人の人生全部ではなく、その人が見せている一部分を見ている」

それだけでも、少し冷静になれるかもしれません。


「人と比べない」のではなく、「比較する相手」を変える

では、どうすればいいのでしょうか。

SNSをやめる。

他人を見ない。

比較しない。

それも一つの方法です。

しかし、現代社会で完全に人との比較をなくすのは、簡単ではありません。

そこで提案したいのが、

「比較する相手を変える」ことです。

「あの人と比べて、自分はどうなのか」

ではなく、

「昨日の自分と比べて、今日はどうだったのか」

と考えてみるのです。

昨日より少し早く起きられた。

昨日より一つ多く仕事を片づけられた。

誰かに「ありがとう」と言えた。

嫌なことがあったけれど、誰かに八つ当たりしなかった。

疲れていることに気づいて、無理をしなかった。

誰かに「助けて」と言えた。

どれも、大きな成果ではありません。

SNSに載せても、たくさんの「いいね」がつくとは限りません。

でも、人生にとって大切な変化は、必ずしも人から評価されるものではありません。


成長は、「目立つ形」で現れるとは限らない

若い頃は、「成長」というと分かりやすい成果を思い浮かべます。

資格を取る。

昇進する。

収入が増える。

結婚する。

家を買う。

何か大きなことを成し遂げる。

もちろん、それらも素晴らしい変化です。

でも、人生を重ねてくると、別の種類の成長があることに気づきます。

以前ほど、人の目を気にしなくなった。

人に頼れるようになった。

失敗した自分を、少し許せるようになった。

他人の成功を、素直に喜べるようになった。

無理をしてまで「頑張らなければ」と思わなくなった。

小さな幸せに気づけるようになった。

こうした変化は、外からは見えません。

数字にもなりません。

でも、それも確かな成長です。

人生の後半になるほど、「何を手に入れたか」より、「どう生きられるようになったか」が大切になるのかもしれません。


「羨ましい」は、自分の本音を知るサインかもしれない

それでも、誰かを羨ましく思う夜はあります。

「あの人が羨ましい」

「自分もあんな生活がしたい」

そう思うこと自体は、悪いことではありません。

むしろ、その気持ちを少し掘り下げてみると、自分が本当に欲しいものが見えてくることがあります。

旅行している人が羨ましい。

本当に欲しいのは「旅行」ではなく、「自由な時間」なのかもしれません。

仕事で成功した人が羨ましい。

欲しいのは「肩書」ではなく、「認められているという実感」なのかもしれません。

仲の良い家族の姿が羨ましい。

欲しいのは、形としての家族ではなく、「安心できるつながり」なのかもしれません。

だから、

「羨ましい」と思ったときは、自分を責めるのではなく、「私は何を求めているのだろう」と問いかけてみる。

そうすれば、比較は「自己否定」から「自己理解」へ変わることがあります。


夜は、自分を裁く時間ではありません

一日の終わりに、

「今日は何ができなかったか」

「自分はどこがダメだったか」

「あの人はもっと頑張っている」

と、自分に厳しい判決を下して眠る必要はありません。

夜くらいは、

「今日も一日、よくやった」

と、自分を自分の側に戻してあげてもいいのではないでしょうか。

眠る前にスマートフォンを置いて、一つだけ問いかけてみる。

「今日の自分は、昨日の自分より何が一つ変わっただろう?」

大きなことでなくていいのです。

今日は誰かに「ありがとう」と言えた。

今日は少し笑えた。

今日は無理をしなかった。

今日は人の話を最後まで聴いた。

今日は自分の疲れに気づけた。

それで十分です。


人生には、もう一つの物差しがある

私たちは、たくさんの「比較の物差し」に囲まれています。

年収。

肩書。

学歴。

フォロワー数。

持っているもの。

仕事の実績。

結婚しているかどうか。

子どもがいるかどうか。

そうしたものも、人生の一部です。

でも、それだけで人の人生の価値を測ることはできません。

どれだけ人に優しくできたか。

どれだけ自分を大切にできたか。

どれだけ誰かと心を通わせることができたか。

どれだけ小さな幸せに気づけたか。

昨日より少しだけ、自分らしく生きられたか。

そこにも、人間の人生を測る大切な価値があります。

だから、

「他人より上か、下か」だけではない、もう一つの物差しを持っていたい。

その物差しが、「昨日の自分」です。


「あの人」から、もう一度「自分」へ

もし今夜、SNSを見て落ち込んでしまったら。

無理に前向きになる必要はありません。

「羨ましいな」

「いいな」

「自分もそうなりたいな」

そう思った自分を、そのまま認めてあげればいい。

そして、スマートフォンをそっと置いてみる。

「あの人にならなくてもいい」

「私には、私の時間がある」

そう考えてみる。

そして最後に、

「昨日の自分と比べたら、今日はどうだっただろう?」

と、自分の人生に視線を戻してみる。

昨日より少し穏やかになれた。

昨日より少し優しくなれた。

昨日より少し自分を大切にできた。

それだけでも、人生はちゃんと前に進んでいます。

他人と比べて落ち込む夜があってもいい。

そんな夜には、他人を見ることを少しだけ休んで、自分の人生を見てみましょう。

夜は、一日の自分を裁く時間ではありません。

「今日もよくやった」と、自分を自分の側に戻してあげる時間です。

そして、眠る前にほんの少しだけ「心の余白」をつくる。

明日はまた、新しい一日が始まります。

だから今夜くらいは、

「あの人より、どうだったか」ではなく、
「昨日の自分より、どうだったか」。

その物差しで、自分の一日を見てあげてもいいのではないでしょうか。

比べる相手を変えると、人生の見え方が変わる。

「あの人」を見るのを少し休んで、「自分」に戻ってくる。

それは、誰かに勝つためではなく、自分の人生を、自分の手に取り戻すための小さな一歩なのです。


い~ち・あざーネットワークから

私たちは、人と人が「知り添う」ことのできる社会を考えています。

誰かと比べることで自分の価値を決めるのではなく、互いの違いや、それぞれの人生の歩みを認め合う。

そして、自分自身にも少し優しくなれる。

そんな「心の余白」が、一人ひとりの中に生まれること。

それもまた、「知り添う」社会につながっていくのではないでしょうか。

誰かと比べて、自分を小さくしなくていい。

あなたには、あなたの時間があります。

今夜は、誰かの人生ではなく、あなた自身の一日をそっと振り返ってみてください。