
~自分を大切にすることは、決してわがままではない~
「あなたは、本当に『いい人』ですね。」
この言葉は、褒め言葉として使われることがほとんどです。しかし、その一方で、この言葉に複雑な思いを抱く人も少なくありません。
頼まれると断れない。
本当は嫌なのに笑顔で引き受けてしまう。
相手に気を遣い過ぎて、自分の気持ちが分からなくなる。
こうした人たちは周囲から「優しい人」「気配りのできる人」と評価される一方で、心の中では疲れ切っていることがあります。
現代社会には、このような「いい人」が数多く存在しています。
そして、その「いい人」であることが、生きづらさの原因になっているケースも決して少なくありません。

「嫌われたくない」が行動を決めてしまう
「いい人」であり続けようとする背景には、さまざまな理由があります。
幼い頃から「人に迷惑をかけてはいけない」と教えられてきた人もいるでしょう。
親や先生から褒められるために、我慢することを覚えた人もいるかもしれません。
また、職場や学校、地域社会などで人間関係を円滑にするため、「空気を読む」ことが習慣になっている人もいます。
もちろん、思いやりや協調性は社会に必要な力です。
しかし、それが「自分の心を犠牲にしてでも周囲に合わせる」という状態になってしまえば話は別です。
いつの間にか、自分の人生を他人の期待で埋め尽くしてしまいます。
本当は何が好きなのか。
本当はどう生きたいのか。
そんな問いに答えられなくなる人も少なくありません。

「優しい人」と「都合のいい人」は違う
世の中には、「優しい人」と「都合のいい人」がいます。
この二つは似ているようで、本質的にはまったく異なります。
優しい人は、自分も相手も大切にします。
一方で、都合のいい人は、自分を犠牲にして相手を優先します。
一見すると後者のほうが献身的に見えるかもしれません。
しかし、それは長続きしません。
無理を重ねれば、やがて心は疲弊します。
疲れた心は余裕を失い、笑顔も減り、人に優しくする力そのものが弱くなってしまいます。
つまり、自分を大切にできない人は、長い目で見れば他人を大切にすることも難しくなるのです。

「NO」と言えることは、人を傷つけることではない
日本人は特に「断ること」に苦手意識を持つ傾向があります。
しかし、「NO」と伝えることは、相手を否定することではありません。
自分の事情を正直に伝えることです。
例えば、
「今回は難しいです。」
「少し考えさせてください。」
「今は余裕がありません。」
このような言葉を伝えることは決して失礼ではありません。
むしろ、お互いが無理をしない関係を築くためには必要なコミュニケーションです。
本当に信頼できる相手であれば、その気持ちを理解してくれるでしょう。
もし、それで離れていく人がいるのであれば、その関係は「あなた自身」ではなく、「都合のいいあなた」を求めていたのかもしれません。

自分を大切にすることは、社会貢献でもある
私たちは「利他」を大切にしたいと考えています。
しかし、本当の利他とは、自分を消して他人に尽くすことではありません。
自分自身が健康で、笑顔で、心に余裕があるからこそ、人に手を差し伸べることができます。
飛行機では、酸素マスクが必要になったとき、「まず自分が装着してから子どもを助けてください」と案内されます。
これは決して自己中心的だからではありません。
自分が倒れてしまえば、誰も助けられなくなるからです。
人生も同じです。
自分を守ることは、人を守る力を保つことでもあります。

「卒業」とは、人との関係を捨てることではない
ここで誤解してほしくないことがあります。
「いい人」を卒業するとは、冷たい人になることではありません。
人に優しくしなくなることでもありません。
自分の本音を大切にしながら、人にも誠実であるという新しい生き方を選ぶことです。
必要以上に期待に応えようとしない。
無理なお願いには勇気を持って断る。
疲れたら休む。
助けが必要なら「助けてください」と言う。
こうしたことは決して弱さではありません。
むしろ、自分を理解している人だからこそできる行動です。

子どもたちに伝えたいこと
もし私たち大人が、「我慢することが立派なことだ」という姿だけを子どもたちに見せ続けたら、子どもたちも同じ生き方を学んでしまいます。
しかし、
「今日は疲れたから休もう。」
「できないことは断ってもいい。」
「困ったら助けを求めよう。」
そんな姿を見せることも、大切な教育ではないでしょうか。
自分を大切にできる人は、他人を大切にする方法も知っています。
自分を認められる人は、他人の違いも認めることができます。
未来の社会には、自己犠牲だけを美徳とする価値観ではなく、自分も相手も尊重できる価値観が必要です。

おわりに
人生は、人からどう見られるかだけで決まるものではありません。
本当に大切なのは、自分自身が納得して毎日を生きられているかどうかです。
「いい人」を卒業することは、優しさを捨てることではありません。
自分を犠牲にする優しさから、自分も相手も大切にする優しさへと成長することです。
私たちの社会には、思いやりが必要です。
しかし、その思いやりは、自分を失うことで成り立つものではありません。
一人ひとりが自分らしく生き、自分の心を大切にしながら、人と支え合う。
そんな人が少しずつ増えていけば、社会には今よりも穏やかな空気が流れるはずです。
「いい人」を卒業することは、自分勝手になることではありません。
それは、本当の意味で「人にも、自分にも優しい人」になるための、新しい一歩なのです。
