~「社会の幸せ」と「会社の儲け」を両立させる時代へ~

これまで企業は「利益を追求する組織」、NPOや患者団体は「社会課題を解決する組織」と、まるで別世界の存在として語られてきました。しかし近年、その境界線は急速に曖昧になりつつあります。その中心にある考え方がCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)です。

私達はこれまで「企業と非営利団体の融合」や「リフレーミング」など、我々の活動と重なる今後のテーマとして論じてきました。

かつて企業経営において、「社会貢献」と「利益追求」は別物として考えられていました。

社会貢献を行えば利益が減る。
利益を追求すれば社会性が薄れる。

つまり両者はトレードオフの関係にあると考えられていたのです。

そのため、多くの企業では本業で利益を上げ、その一部を寄付やボランティア活動に回すという形が一般的でした。

しかし近年、その考え方は大きく変化し始めました。

その象徴的な概念であります。

CSVとは、社会課題の解決そのものを事業化し、社会にとって良いことが企業の利益にもつながる仕組みを作る考え方です。

つまり、

「社会の幸せ」

「会社の儲け」

を対立させるのではなく、同時に最大化しようという発想です。

私は、この考え方こそ今後の企業の在り方であり、さらに言えば社会全体の方向性を示しているように感じています。

なぜ従来型経営が限界を迎えたのか

高度経済成長期の日本では、とにかくモノを作れば売れました。

品質が良い。
価格が安い。

それだけで十分に競争力がありました。

しかし現在は違います。

人口減少。
少子高齢化。
環境問題。
孤独・孤立。
メンタルヘルス。
地域コミュニティの衰退。

社会には複雑な課題が山積しています。

そして消費者自身も変化しました。

単に安い商品を求めるだけではありません。

「この会社は社会にどんな価値を生み出しているのか」

を重視する人が増えています。

特に若い世代ではその傾向が顕著です。

つまり企業が社会課題を無視して利益だけを追求する経営は、むしろ長期的な利益を失うリスクを抱えるようになったのです。

ネスレが示したCSV経営

CSVという概念を世界的に広めた代表例として、Nestléが挙げられます。

同社は単なる寄付活動ではなく、コーヒー農家や酪農家の育成に積極的に投資しています。

一見すると社会貢献活動のように見えます。

しかし実際には、

農家の収入が安定する

品質の高い原材料が確保できる

企業の競争力が高まる

という好循環を生み出しています。

社会の利益と企業利益が一致しているのです。

まさにCSVの典型例です。

ユニクロが目指す循環型社会

日本企業でもCSV的な取り組みは増えています。

たとえばユニクロを展開するファーストリテイリングです。

不要になった衣類を回収し、難民支援やリサイクルへ活用する取り組みを行っています。

環境負荷を減らしながら企業ブランドの価値も向上しています。

以前なら「環境対策はコスト」と考えられていました。

しかし現在は、

環境に配慮する企業

消費者から支持される

利益が生まれる

という構造になっています。

社会性そのものが競争力になっているのです。

高齢化社会は巨大な市場である

日本が直面する高齢化も同様です。

従来であれば、

「高齢化は社会保障費の増大を招く問題」

として語られていました。

しかしCSVの視点で見ると、

「高齢者の課題を解決する巨大な市場」

とも言えます。

見守りサービス。
健康管理システム。
移動支援。
認知症予防。

これらはすべて社会課題の解決でありながら、新しい産業にもなっています。

問題を問題として見るだけでなく、新しい価値創造の機会として捉える。

これがCSV的発想です。

孤立という社会課題にも可能性がある

孤独や孤立。

難病患者の生きづらさ。

若者の居場所不足。

高齢者の社会的孤立。

これらは行政だけでは解決できません。

一方で、多くの企業も人材不足や地域との関係構築に悩んでいます。

もし企業が孤立解消の取り組みに参加し、

地域住民との接点を増やし、

従業員のウェルビーイング向上にもつながる仕組みを作れたならどうでしょう。

社会課題の解決と企業価値向上が同時に実現します。

まさにCSVです。

我々が提唱してきた「社会とのつながりのターミナル駅」も、このCSV的発想と非常に相性が良いと思います。

そこは単なる福祉施設ではなく、

社会課題を解決しながら新しい価値を生み出すプラットフォームになり得るからです。

CSVは経営手法ではなく世界観である

CSVを単なる経営戦略として見ると、本質を見失うかもしれません。

なぜならCSVは、

「自社だけが勝つ」

という発想から、

「社会全体が良くなる中で自社も成長する」

という発想への転換だからです。

これは経営手法というより世界観に近いものです。

従来の資本主義は競争を重視しました。

もちろん競争は必要です。

しかしこれからは競争だけではありません。

共創。

協働。

共生。

そうした価値観が重要になります。

企業同士。

企業と行政。

企業とNPO。

企業と市民。

それぞれが持つ強みを掛け合わせることで、これまで解決できなかった課題に挑戦できる時代になったのです。

私たちは何を目指すべきか

CSV経営が広がる背景には、社会そのものの成熟があります。

人々は単なる物質的豊かさだけでは満足しなくなりました。

「誰かの役に立っている」

「社会とつながっている」

「未来世代に何かを残せる」

そうした価値を求め始めています。

企業もまた同じです。

利益だけでは長く支持されません。

社会的価値だけでも持続できません。

だからこそ、

社会の幸せを増やすことが利益につながり、
利益を生むことが社会の幸せにつながる。

そんな循環を生み出す企業が求められているのです。

CSV経営とは、決して理想論ではありません。

むしろ最も現実的で、最も合理的な経営戦略です。

そして私は、これからの社会において成功する企業とは、「何を売る会社か」ではなく、「どんな社会課題を解決する会社か」で評価されるようになると考えています。

その変化はすでに始まっています。

未来の企業とは、利益を生み出す組織であると同時に、人と人をつなぎ、地域を支え、社会に希望を生み出す存在なのかもしれません。

CSVとは、その未来への入り口なのでしょう。