
周囲は「何を言ってはいけないのか」
医師から病気を告知されたとき、患者の心は大きく揺れ動きます。
とくに難病や慢性疾患の場合、その告知は単なる医学的な説明ではなく、これからの人生を考え直さざるを得ない出来事になることも少なくありません。
そのようなとき、患者の周囲にいる家族、友人、職場の人、そして医療者は、「何か声をかけなければ」と思うものです。心配しているからこそ、励ましたい、元気づけたい、そう考えるのはとても自然なことです。
しかし実際には、その善意の言葉が、患者の心を深く傷つけてしまうことがあります。
これは決して、言葉をかけた人の気持ちが間違っているわけではありません。むしろ多くの場合、相手を思う気持ちから出た言葉です。けれども、病気を告知された直後の患者の心は非常に敏感で、ほんの一言が強く響いてしまうことがあります。
では、どのような言葉に注意すればよいのでしょうか。
患者相談の現場でもよく耳にする「できれば避けてほしい三つの言葉」について考えてみたいと思います。

①「大丈夫、大したことないよ」
励まそうとして、つい言ってしまいがちな言葉です。
「きっと大丈夫だよ」
「大した病気じゃないよ」
「今は医療が進んでいるから」
この言葉には、相手を安心させたいという気持ちが込められています。しかし、患者の立場からすると、違った意味に聞こえてしまうことがあります。
それは、「自分の不安が軽く扱われている」という感覚です。
病気を告知されたばかりの人にとって、不安や恐れはとても現実的なものです。将来の生活、仕事、家族のことなど、さまざまな思いが頭の中を巡っています。
そのときに「大したことない」と言われると、自分の気持ちが理解されていないと感じてしまうことがあります。
励ましのつもりの言葉でも、相手の気持ちを否定する形になってしまうことがあるのです。

②「もっと大変な人もいるよ」
これも、悪気なく言われることが多い言葉です。
「世の中にはもっと重い病気の人もいる」
「まだ軽い方じゃないか」
「それくらいなら大丈夫」
この言葉には、「前向きに考えてほしい」という意図があることが多いでしょう。しかし、この言葉は患者にとって非常につらい響きを持つことがあります。
なぜなら、不安や苦しみというものは、他人と比較できるものではないからです。
ある人にとって大きな問題であることが、別の人にとってはそうでないこともあります。しかし、その人が感じている不安や恐れは、その人にとっては確かな現実です。
それを「もっと大変な人もいる」と言われると、「自分の苦しみは認めてもらえないのだ」と感じてしまうことがあります。
苦しみは比較ではなく、理解と共感によって軽くなるものです。

③「前向きに考えなさい」
これも励ましの言葉としてよく使われます。
「前向きに考えよう」
「気持ちを強く持たないと」
「落ち込んでいても仕方ない」
もちろん、前向きな気持ちは大切です。しかし、告知直後の患者にとっては、そのような気持ちになる余裕がまだないことも多いのです。
大きな出来事に直面したとき、人の心は段階を経て現実を受け止めていきます。
(この心理的な変化は、先日も書きましたが心理学ではキューブラー=ロスの悲嘆の5段階モデルとして知られています。)
ショック、否認、怒り、落ち込み、そして受容。
人はこうした過程を通りながら、少しずつ現実と向き合う力を取り戻していきます。
つまり、落ち込んだり不安を感じたりすることは、決して弱さではなく、心の自然な反応なのです。
その途中にいる人に「前向きになりなさい」と言ってしまうと、「今の自分は間違っているのではないか」と感じさせてしまうことがあります。

本当に必要なのは「正しい言葉」ではない
では、何を言えばよいのでしょうか。
実は、多くの患者が語るのは「特別な言葉はいらなかった」ということです。
むしろ、
「それはつらかったですね」
「驚きましたよね」
「話したくなったらいつでも聞きます」
こうした言葉の方が、心に残ることが多いと言われています。
大切なのは、励ますことよりも、相手の気持ちをそのまま受け止めることです。
人は、自分の不安や悲しみを理解してもらえたと感じたとき、少しずつ心の力を取り戻していきます。

「言葉」よりも「姿勢」
病気の告知という出来事は、患者だけでなく周囲の人にとっても戸惑うものです。何を言えばよいのか分からず、沈黙してしまうこともあるでしょう。
しかし、本当に大切なのは完璧な言葉ではありません。
「あなたのことを大切に思っている」
「一人ではない」
その気持ちが伝わることです。

人は、誰かがそばにいてくれると感じたとき、困難な状況の中でも前を向く力を見つけていきます。
病気を抱えることは確かに大きな出来事です。
しかし、その人の人生がそれだけで決まるわけではありません。
周囲の理解とつながりがあるとき、患者は少しずつ自分の歩み方を見つけていくことができます。
そのためにも、私たちは「励ましの言葉」よりも、相手の気持ちに寄り添う姿勢を大切にしていきたいものです。
病気を告知されたとき、何を考える? 人はこう考えてしまいます。
