
人に自分の思いを伝えるための秘訣とテクニック
私たちは日々の暮らしの中で、誰かに自分の思いを伝える機会に多く直面します。家族や友人、職場の同僚、さらには初対面の相手や多人数の聴衆に対して、自分の考えや気持ちを届けることは、社会生活を営む上で欠かせない営みです。しかし、伝えたいことがうまく伝わらなかった、誤解を生んでしまった、思いが届かなかったといった経験は、誰しも一度はあるのではないでしょうか。

思いを伝えるという行為には、「話す」や「書く」といった表現手段以上に、相手の立場や状況、聞く姿勢に対する配慮が求められます。人に自分の思いを伝えるために有効な考え方と具体的なテクニックを、私の経験から得た物をベースに、自戒の念も込めて、個人に向けた場合と、複数人に向けた場合とに分けて考えたいと思います。
1.思いを伝える基本的な考え方
まず大前提として、「思いを伝える」ことは「言葉にする」ことではありません。言葉にすることはその一部に過ぎず、最も重要なのは、「相手に届くかどうか」という点です。つまり、伝える側の自己満足ではなく、「相手にどう受け取られるか」を意識する姿勢が必要なのです。
そのためには、以下の三つの視点を持つことが大切です。
- 相手の立場や感情に寄り添うこと
- 言葉の選び方を工夫すること
- 伝える目的を明確にすること
これらの基本的な姿勢が備わっていないと、どれほど巧みな話術を用いても、思いは届きません。テクニックはあくまで、それらの土台の上に成立するものなのです。

2.個人に思いを伝える際の秘訣
対話の基本単位は「一対一」です。個人に対して思いを伝える場合、関係性や状況に応じて細やかな配慮が可能であり、その分、伝わり方も繊細になります。以下にいくつかの具体的なポイントを挙げます。
① タイミングを見極める
相手が疲れているときや、心が閉じているときに、こちらの思いを押しつけても届きません。相手が受け取る準備ができているかどうかを観察することは、対話における第一歩です。

②「私」を主語にする
「あなたはいつも…」という非難口調ではなく、「私はこう感じた」という「Iメッセージ」を使うことで、相手を責めることなく、自分の気持ちを伝えることができます。これは心理学的にも効果が高いとされています。
③ 表情や声のトーンに注意する
言葉の内容以上に、表情や声の調子は大きな影響を持ちます。特に感情が伴う内容を伝えるときは、穏やかな表情と柔らかい口調を意識することで、相手に安心感を与えることができます。

④「聞く」姿勢を持つ
思いを伝えるというと、「話す」ことに意識が向きがちですが、実は「聞く」ことの方が大切です。相手の言葉に耳を傾けることで、真の対話が成立し、思いも深く伝わります。
3.複数人に思いを伝える際の秘訣
複数人を相手にする場合、情報の届き方が一様ではないため、伝え方にも工夫が必要です。講演やプレゼンテーション、あるいは集会でのスピーチなどが該当します。ここでは以下のようなポイントが重要です。

① メッセージを絞る
一度に伝えられる内容には限りがあります。伝えたい思いが複数ある場合でも、「今回の話で一番伝えたいことは何か?」を明確にし、メッセージを絞り込むことが大切です。あれもこれもと詰め込むと、結果的に何も伝わらないということになりかねません。
② 具体例を活用する
抽象的な話では、聴衆の心には届きにくいものです。自身の体験や、他者のエピソードなど、具体的な事例を交えて話すことで、共感や理解を得やすくなります。

③ 聞き手との距離を縮める
「あなたたち」ではなく「私たち」と語りかけることで、聞き手との心理的な距離を縮めることができます。アイコンタクトや問いかけ、軽いユーモアなども効果的です。
④ 構成を工夫する
話の流れには「導入・展開・結論」があります。冒頭で関心を引き、中盤で根拠や具体例を示し、終盤でしっかりとまとめる構成を意識することで、より伝わりやすくなります。
4.共通する大切な要素:「信頼」と「誠実さ」
個人に対しても、複数人に対しても、思いを伝えるうえで何よりも重要なのは、話し手に対する「信頼」と「誠実さ」です。どれだけテクニックを駆使しても、根底に誠実な心がなければ、相手の心には響きません。
また、言葉が届く背景には、「この人は信用できる」「この人の話なら聞いてみよう」という無意識の感情が働いています。人と人とのつながりの中では、最終的に「人間性」が物を言うということを、忘れてはならないでしょう。

5.まとめますと・・
思いを伝えるという行為は、単に情報を届けるのではなく、「相手の心に何かを届ける」営みです。そのためには、テクニック以上に、「届けたい」という真摯な気持ちと、「届くように工夫する」という配慮が必要です。
個人への伝え方と、複数人への伝え方にはそれぞれのコツがありますが、共通して重要なのは、「相手の目線に立つこと」と「信頼関係を大切にすること」です。伝える技術は、相手を思いやる姿勢の延長線上にあります。
私たち一人ひとりが、このような視点を持ちながら思いを伝えていけるならば、誤解やすれ違いは減り、社会全体がより温かな対話に満ちたものになるのではないでしょうか。