解釈レベル理論（Construal Level Theory, CLT）は、心理学者によって提唱された理論で、物事や出来事の「心理的距離」に応じて、それらがどのように認識されるか（解釈されるか）に関するものです。心理的距離には時間的距離、空間的距離、社会的距離、仮想的距離（現実からの距離）などが含まれます。この理論は、特定の対象やイベントが心理的にどれだけ「遠い」かによって、それに対する認識や判断が抽象的または具体的になると考えられています。
以下に『解釈レベル理論』の主要なポイントを示します。
抽象的解釈と具体的解釈：
心理的距離が大きい（遠い）とき、私たちは物事を抽象的に解釈する傾向があります。これは、「なぜ」そのことが起こるのかという大きな目的や意味に焦点を当てることを意味します。心理的距離が小さい（近い）とき、私たちは物事を具体的に解釈する傾向があります。これは、「どうやって」それが実現されるのかという具体的な方法や手段に焦点を当てることを意味します。
時間的距離：
未来の出来事（心理的に遠い）に対しては抽象的な考え方をしやすいです。例えば、来年の旅行については大まかな計画や目的を考える傾向があります。近い将来の出来事（心理的に近い）に対しては具体的な考え方をしやすいです。例えば、明日のミーティングについては具体的な準備や手順を考える傾向があります。
空間的距離：
遠くの場所での出来事（心理的に遠い）に対しては抽象的に捉えやすいです。例えば、他国でのニュースは大まかな理解にとどまることが多いです。近くの場所での出来事（心理的に近い）に対しては具体的に捉えやすいです。例えば、自分の住んでいる地域での出来事は詳細に関心を持ちやすいです。
社会的距離：
自分と心理的に遠い人（例えば、他の文化圏の人や著名人）については抽象的に捉えやすいです。自分と心理的に近い人（例えば、家族や友人）については具体的に捉えやすいです。
仮想的距離：
実現可能性の低いこと（心理的に遠いこと）については抽象的に考えやすいです。例えば、夢や理想のようなもの。実現可能性の高いこと（心理的に近いこと）については具体的に考えやすいです。例えば、日常のタスクや現実的な目標。
解釈レベル理論は、マーケティング、意思決定、計画行動、対人コミュニケーションなど、さまざまな分野で応用されています。この理論を理解することで、人々がどのように情報を処理し、意思決定を行うかについての洞察を得ることができます。
それでは、マーケティング、意思決定、計画行動、対人コミュニケーションの例をあげてみます。
- マーケティング
例1: 広告戦略
心理的に遠い製品（将来の購入）：例えば、高価な家電製品（冷蔵庫など）を数年後に購入する場合、広告ではその製品の長期的なメリットやブランドの信頼性、製品の革新性に焦点を当てた抽象的なメッセージが効果的です。
心理的に近い製品（すぐに購入可能な商品）：例えば、日常的に使用する消耗品（歯磨き粉など）をすぐに購入する場合、広告では価格、特典、具体的な機能や使用方法などに焦点を当てた具体的なメッセージが効果的です。
例2: 商品パッケージ
遠方の顧客を対象とする商品：高級ワインのような遠くの市場をターゲットにした商品では、パッケージに抽象的なデザインやエレガントなラベルを使い、ブランドの歴史や理念を強調する。
近隣の顧客を対象とする商品：地元のスーパーで販売するジュースの場合、具体的な成分情報や栄養価、使用されているフルーツの写真などをパッケージに明示する。
- 意思決定
例1: 投資の意思決定
長期投資：将来のリターンを期待する長期投資では、抽象的な要因（市場の成長予測、社会的影響、技術革新）に基づいた意思決定が行われやすい。
短期投資：近い将来のリターンを狙う短期投資では、具体的なデータ（現在の株価、企業の四半期業績、短期的な市場動向）に基づいた意思決定が行われやすい。
例2: キャリアの意思決定
将来のキャリア目標：例えば、10年後のキャリア目標を設定する際には、抽象的な理想やビジョン（どのような仕事をしたいか、どの業界で働きたいか）を考慮する。
近い将来のキャリアステップ：次の昇進や転職を考える際には、具体的なスキルアップの方法、面接の準備、職務内容の詳細などを考慮する。
- 計画行動
例1: 長期プロジェクトの計画
遠い将来の目標：例えば、5年後に達成したいプロジェクトの目標を設定する際には、大きなビジョンや全体の方向性（目標、ミッション）に焦点を当てる。
近い将来のタスク：週次のタスクや月次のマイルストーンを設定する際には、具体的な作業内容やリソースの割り当て、進捗管理に焦点を当てる。
例2: イベントの計画
遠い将来のイベント：半年後に開催するカンファレンスの計画では、テーマの選定、全体的な構成、主要スピーカーのリストなどの抽象的な要素に焦点を当てる。
近い将来のイベント：来月の社内ミーティングの準備では、会場の予約、具体的な議題、参加者リスト、資料の準備など具体的な要素に焦点を当てる。
- 対人コミュニケーション
例1: ビジネスコミュニケーション
上層部への報告：将来的なビジョンや戦略に関する報告では、抽象的な概念や大まかな計画、長期的な目標を強調する。
同僚への報告：日々の業務やプロジェクトの進捗に関する報告では、具体的なデータ、現状の問題点、即時対応が必要な事項を強調する。
例2: パーソナルコミュニケーション
遠方の友人とのコミュニケーション：遠くに住む友人と話す際には、最近の大まかな出来事や長期的な計画、夢や希望について話すことが多い。
近くに住む友人とのコミュニケーション：近くに住む友人と話す際には、日常の具体的な出来事や短期的な予定、具体的な問題解決について話すことが多い。
解釈レベル理論を理解することで、状況に応じた適切なアプローチやコミュニケーションができるようになり、さまざまな分野での効果的な戦略を立てることができます。ですので、この理論を意識した上で『場に合った』コミュニケーションを心がける事は、自らのスキルアップにも繋がるでしょう。
