
――自分のやりたいことの見つけ方――
私たちはよく「やりたいことを見つけなければ」と考えます。就職、転職、定年後の生活、あるいは人生の節目で、「自分はいったい何をしたいのだろう?」と自問する瞬間があります。しかし、いざ考えてみると、はっきりとした答えはなかなか出てきません。「やりたいことは何ですか?」と問われて、即答できる人の方が少ないのではないでしょうか。
多くの場合、やりたいことを「大きな目標」や「立派な夢」として構えすぎてしまうからこそ、見つからないのです。例えば「世界を変える仕事がしたい」「人の役に立つことがしたい」と考えても、そのために自分が何をすればいいのか、具体的なイメージがわかずに立ち止まってしまう。そうして「自分には特別なやりたいことがないのでは」と悩んでしまう。
けれども、本当に大切なのは「大きな夢を一度に見つけること」ではなく、日常の中に散らばる小さなサイン――つまり、違和感やワクワクに気づくことです。

1.「違和感」は心のアラート
まず「違和感」について考えてみましょう。
違和感とは、「なんだかモヤモヤする」「自分の中で引っかかる」感覚のことです。例えば、職場で慣例的に行われている業務のやり方に「どうしてこんなに非効率なんだろう」と思ったり、ニュースで流れてきた社会問題に「これはおかしい」と憤りを感じたり。人によって形はさまざまですが、違和感は私たちの内側にある価値観や関心が、何かとぶつかったときに生まれます。
つまり違和感とは、「自分が本当に大事にしたいこと」や「譲れない価値観」のヒントです。
たとえばある人が、会社で会議中に上司の一方的な指示が繰り返されるのを見て「なぜ部下の意見を聞かないんだろう」とモヤモヤしたとします。その違和感は、その人が「人の声を大切にしたい」「一方通行ではなく、対話を重んじたい」という価値観を持っている証拠かもしれません。
違和感を無視すると、それはただの不快感で終わってしまいます。しかし丁寧に掘り下げることで、「自分はどんな状況を望んでいるのか」「なぜそこにこだわりを感じるのか」といった、自分自身の輪郭が浮かび上がってきます。

2.「ワクワク」は未来へのセンサー
次に「ワクワク」について。
ワクワクとは、心が少し躍るような感覚です。特別なことだけではなく、日常のほんの些細な場面にも隠れています。例えば、本屋である分野の本を手に取って夢中でページをめくってしまうとき。旅行の計画を立てているとき。子どもと話していて時間を忘れるとき。
ワクワクは「自分のエネルギーが自然と向かう方向」を示しています。努力や我慢をして頑張らなくても、つい心が惹かれる。やりたいことを探すときには、この小さなワクワクを大事にすることがとても有効です。
ただし、多くの人は「これは大したことじゃない」と軽視してしまいがちです。「趣味みたいなことだし」「お金にならないし」と切り捨ててしまうのです。しかし実際には、ワクワクの中にこそ、自分らしいやりたいことの種が隠れています。
例えば、友人の誕生日に手作りのお菓子を渡すのが楽しいと感じる人は、料理や人を喜ばせることにワクワクを感じているのかもしれません。そこから将来的にカフェを開いたり、料理教室を始めたりする道につながることもあります。

3.「大きな夢」は小さなサインの積み重ねから生まれる
多くの人が陥るのは、「最初から完成されたやりたいことを見つけよう」とすることです。けれども、やりたいことは最初から形になっているわけではありません。
違和感を見つけ、それを避けたいと思う。その先で「こうだったらいいのに」と理想を思い描く。そして、ワクワクすることを試してみる。こうした小さな積み重ねの先に、大きな夢や目標が形になっていくのです。
例えるなら、やりたいこと探しは「地図を広げてゴールを決める旅」ではなく、「散歩をしながら気になる道に入ってみる旅」に近いものです。途中で寄り道をし、時には引き返しながら、「あ、自分はこういう景色が好きなんだ」と気づいていく。その過程自体が、自分らしい道を形づくっていきます。

4.実践のヒント
では、実際に「小さな違和感やワクワク」を拾うにはどうすればよいのでしょうか。ここでいくつか具体的な方法をご紹介します。
- 日記をつける
一日の終わりに「今日の違和感」「今日のワクワク」を一行でも書き残す。続けると、自分が繰り返し反応しているテーマが見えてきます。 - 人に話す
自分のモヤモヤや楽しさを人に話してみると、思わぬ気づきをもらえることがあります。言葉にすることで、自分の感覚も整理されていきます。 - 小さな行動に移す
ワクワクしたことに少し手を伸ばしてみる。たとえば気になる本を一冊読んでみる、イベントに参加してみる。小さな行動の積み重ねが、自分の道を広げていきます。

5.まとめ
「やりたいことを見つける」と聞くと、多くの人は特別な何かを想像します。しかし実際には、日常の中で感じる小さな違和感やワクワクこそが、自分の心の奥からのサインです。
大きな夢は最初から用意されているものではなく、小さなサインを拾い、育てていく中で形になっていきます。
だからこそ、まずは「自分の感覚を信じてみること」。そして、それを軽んじずに一つひとつ確かめていくこと。その積み重ねが、自分だけの「やりたいこと」を見つける一番確かな道だと思います。