「自己肯定感」という言葉が昨今メディアで頻繁に取り上げられ、まるで流行語のように軽く扱われ始めています。確かに広まること自体は歓迎すべきですが、その過程で本来の深い意味や重要性が見失われ、「ポジティブ思考」や「自信」と安易に混同されている現状には危機感を覚えます。特にバラエティ番組などでギャグのように消費されることで、真剣に悩んでいる人の声がかき消されてしまうのではと懸念しています。社会全体で“本質”を丁寧に共有する必要があります。

言葉は社会の空気を変える力を持っています。だからこそ、流行に乗せるだけでなく、「自己肯定感って何か?」という問いに丁寧に向き合い、誤解なく伝えていく姿勢が、今こそ求められているのだと思います。ある意味、日本のマスメディアの悪いクセなのかもしれません。

自己肯定感とは「存在への許可」

自己肯定感をひとことで言えば、「自分はこのままでいていい」と思える感覚です。
もっと言えば、「できる自分」や「成功した自分」だけではなく、うまくいかないときの自分、間違う自分、弱い自分さえも『それでも自分だ』と受け容れられる気持ちです。

たとえば、子どもがテストで60点を取ったとき、「なんでこんな点数なの!」と叱られれば、「100点じゃないと自分には価値がない」と思ってしまうかもしれません。でも、「そっか、難しかったね。頑張ったね」と声をかけられれば、「点数に関係なく、自分は受け容れてもらえる存在なんだ」と感じられます。

この違いが、自己肯定感を育てるか否かの分かれ目と思うのです。

自己肯定感と「自信」は違う

混同されがちですが、「自己肯定感」と「自信」は違います。
自信は「自分は〇〇ができる」という能力やスキルへの信頼感
一方、自己肯定感は「できてもできなくても、自分には価値がある」という存在への信頼感

たとえば、ピアノが得意な人が演奏で失敗したとき、「自信」は揺らぎます。でも、自己肯定感があれば、「失敗しても自分には価値がある」と思えるのです。

自己肯定感が高い人の特徴

・失敗しても立ち直る力がある
・他人と比較して自分を卑下しない
・「完璧じゃなくていい」と思える
・助けを求められる
・人の評価に左右されすぎない

たとえば、ある50代の女性がキャリアの中盤で仕事を辞め、自分の道を探し始めました。「こんな年で転職なんて無理」と周囲に言われても、「私は私の人生を歩む」と言える。これは、まさに自己肯定感があるからこその選択です。

自己肯定感は「育つもの」であり「戻せるもの」

多くの人が「自分は自己肯定感が低い」と言います。
それも当然です。日本の文化には、「謙遜」や「人に迷惑をかけないこと」を重んじる側面が強く、自分を押し出すことに抵抗を持つよう教育されてきました。

でも、自己肯定感は一生育て直すことができます。

具体的な方法

  1. 自分への否定的な言葉に気づく
     「またダメだった」「どうせ自分なんて」という言葉を口にしたとき、「あ、今自分を否定したな」と気づくだけで第一歩です。
  2. 「できたこと」に目を向ける
     寝坊せず起きた、ちゃんとご飯を食べた、誰かに優しくできた。どんな小さなことでもOK。毎日1つ、自分を認めてあげる。
  3. 人と比べない練習をする
     「他人は他人、自分は自分」と繰り返し心に言い聞かせることで、比較思考の呪縛から少しずつ解放されていきます。
  4. ありのままの自分を受け入れてくれる人とつながる
     自己肯定感は“他者との関係の中で”回復していくものです。「無理しないでいいよ」と言ってくれる人の存在は、何よりの支えになります。

最後に:自己肯定感は「生きてていい」という感覚

自己肯定感は「ポジティブに生きよう」という簡単なスローガンではありません。
それは、人が人として生きるための最低限の“許可”のようなものです。

どれだけ成果を出しても、どれだけ人に評価されても、自己肯定感がなければ、心は満たされません。
反対に、できない日が続いても、誰かに否定されても、自分の中に「でも、そんな自分でも生きてていい」と思える場所があれば、人は折れずに歩き続けることができます。

だからこそ、私たちは流行に流されず、この言葉の本質を見失わずに、静かに、そして丁寧に、自分の内側に目を向けることが大切です。