
~次の時代を紡ぐ人たちに託したい本当のこと~
今、私たちが生きている社会は、どこを見渡しても明確な正解が見えづらく、どこか息苦しさや不安が漂っています。
経済の停滞、技術の急速な進化による変化の波、地球環境の変動、そして人とのつながりの変化——。「これから先、自分たちはどう生きていけばいいのだろう」「子供たちの未来はどうなってしまうのだろう」と、ふと立ち止まって考えてしまう瞬間が、誰しもあるのではないでしょうか。
特にいま、30代という人生の真っ只中を生きている皆様は、仕事でも家庭でも中心的な役割を担い始め、押し寄せる責任と将来への不安の狭間で、日々もがきながら前に進んでおられることと思います。
今回は、そんな皆様に向けて、少しだけ心の内をお話しさせてください。
説教やアドバイスをするつもりはありません。また、「まだ若いのだから」といった目線で見るつもりも毛頭ありません。ただ、ひとりの人間として、これまでの時代を歩んできた者の責任と願いを込めて、いま思っていることを素直にお伝えできればと思います。

まず、謝らなければならないことがあります
最初に、胸の奥にある正直な想いを打ち明けさせてください。
いま皆さんが直面しているこの混沌とした世の中、生きづらさを感じざるを得ない社会を作ってしまったのは、間違いなく私たち上の世代の歩んできた結果です。
「豊かさ」や「効率」を追い求めるあまり、本当に大切にすべき人間関係の温もりや、自然との共生、あるいは次世代への配慮を後回しにしてしまった部分があったのかもしれません。目先の成果や利便性と引き換えに、複雑で解きほぐしにくい課題の山を、そのまま皆さんの世代に手渡してしまったのではないか——そんな強い悔根と申し訳なさを抱えています。
「自分たちの世代がもう少し賢く選択していれば、皆さんがこれほど先の見えない不安を抱えずに済んだかもしれない」
そう思うと、どんな言葉を並べても申し訳なさが残ります。
私は皆さんに「もっと頑張れ」とか「将来のためにこうすべきだ」などと、上から目線で指示や指導をする資格などないと考えています。今ある生きづらさの一端は、私たちの歩みの延長線上にあるからです。

「若輩者」ではなく、すでに社会の「主役」として
世間ではよく、30代の方々を「若手」とか「まだまだこれから」といった枠組みで捉えがちです。しかし、最近の私は皆さんをそのように見ることはありません。
実際、私の子供達も30~40歳代ですが、「この時代を子を持つ親として、家庭を守り社会の一員としてよく頑張っている!」と、親でありながら、尊敬の念を抱いております。
30代という時期は、知識や体力が充実し、世の中の現実を冷徹に見つめる目と、それを変えようとする情熱のバランスが最もとれた時期です。社会の現場で汗を流し、新しい価値観を生み出し、あるいは我が子を慈しみ育てている、まさに現在の社会を支えている中心的な存在です。
歴史を振り返ってみても、社会の歪みを正し、新しい風を吹き込んできたのは、いつの時代も皆様のような「現場で葛藤しながら生きている世代」でした。
上の世代が決めた古いルールや、時代に合わなくなった慣習に縛られる必要はありません。
「今までこうだったから」という言葉に納得がいかないときは、どうぞご自身の違和感を信じてください。皆さんが日々の暮らしや仕事の中で感じる「これは何かおかしいのではないか」「もっとこうすれば優しくなれるのではないか」というささやかな疑問こそが、次の時代を良くしていくための最も貴重な出発点なのです。

10年後、20年後の未来を見据えて
私から皆様にひとつだけ、切なる願いがあるとすれば、それは「これからの10年後、20年後の世界を、どうか少しでも温かいものにしてほしい」ということです。
今、皆様の目の前には、自分自身のお子さんや、これから生まれてくる次の世代、あるいは地域や社会の中で育っていく若い命があるかもしれません。さらにその先には、まだ見ぬ孫たちの時代が続いていきます。
私たち大人が残してしまったこの混沌とした世の中ですが、だからこそ、ここから先の未来をどう描くかは、今を生きる皆様の手に委ねられています。
決して、世界を救うような大きな偉業を成し遂げてほしいと言いたいわけではありません。地球規模の課題をひとりで背負い込む必要もありません。
ただ、ご自身の日常の手の届く範囲で、「次の世代にどんなバトンを渡したいか」を時々思い出してみていただきたいのです。
- 誰かの痛みに寄り添える、寛容な空気を作ること
- 勝ち負けや効率だけではない、個人の尊厳を確かめ合える関係を結ぶこと
- 完璧ではなくても、お互いに助け合える「地域やコミュニティ」の土壌を育むこと
そうした日々の小さな選択の積み重ねこそが、10年後、20年後に芽を出し、子供たちや孫たちが安心して呼吸できる社会を作っていくのだと信じています。

孤独にならず、ご自身を大切にしてください
未来のために何かを託したいとお話ししましたが、それ以上に大切なのは「まず、今を生きる皆様自身が幸せであること」です。
混沌とした時代を生きることは、それだけで大きなエネルギーを消費します。仕事での期待と責任、子育てや家族との関係、将来のお金や健康への不安——日常のあらゆる場面でプレッシャーを感じていることでしょう。
どうか、すべてを自分ひとりの背中に背負い込まないでください。
私たち上の世代が残した課題を、皆様の代だけで一気に解決する必要もありません。時代は途切れることなく続いていくものです。疲れ果てたときは立ち止まり、誰かに頼り、息を抜いてください。
上の世代の中にも、過去の反省に立ち、皆様の挑戦を全力で支えたい、邪魔をせずに裏方として力になりたいと願っている人間がたくさんいます。困ったときや、ひとりでは抱えきれない課題にぶつかったときは、遠慮なく周りを頼ってください。
世代を超えて手を取り合い、知識や経験を分かち合うことは、決して恥ずかしいことではありません。

新しい時代を紡ぐ皆様へ
世界は今、大きな転換期を迎えています。
これまでの価値観が崩れ去り、何が正しいのか分からなくなるような暗闇の中で、不安を感じるのは当然のことです。
しかし、闇が深いということは、それだけ新しい光が生まれやすいということでもあります。過去の常識に囚われない皆様の柔軟な思考と、相手を思いやる優しさがあれば、きっとこの混沌の先に、今より少しだけ優しく、誰もが生きやすい時代を作り出していけると確信しています。
かつて私たちがなし得なかった「真に人間らしい豊かな社会」の実現を、皆様の手に託すような形になってしまうことを、改めて心からお詫び申し上げます。
それと同時に、これからの時代を力強く、そしてしなやかに切り拓いていく皆様の姿を、深い敬意と感謝の念をもって見守らせていただきたいと思います。
どうかご自身を大切に、ご自身の歩む道を信じて進んでいってください。
10年後、20年後の未来が、皆様と、皆様の愛する子供たちや孫たちにとって、光に満ちた心地よいものとなることを、心より願っております。
