
やる気が出ない自分を変える「作業興奮」の活用法
~意欲が湧くのを待つのではなく、小さな行動から始めてみる~
1.やらなければと思いながら、なかなか始められない
私達は、やらなければならないことがあるのに、なかなか手をつけられないという経験は誰しも持っていると思います。
本を読もうと思っている。運動を始めようと思っている。新しいことを学びたいと思っている。あるいは、仕事や日常の用事を片づけなければならない。
頭ではわかっているのに、どういうわけか行動に移せない。つい別のことを始めてしまい、気がつけば時間だけが過ぎている。
そんなとき、私たちは「もっとやる気を出さなければ」「自分は意志が弱いのではないか」と考えてしまいがちです。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
もしかすると、私たちは、行動を起こすための順番を間違えているのかもしれません。
一般的には、やる気が出るから行動できると考えます。ところが、実際には、行動を始めることで、次第にやる気が生まれてくる場合もあるのです。
この現象に関連する考え方が「作業興奮」です。最近、少し意識しているワードです。

2.作業興奮とは、行動することで意欲が高まること
作業興奮とは、作業を始めることによって脳が刺激され、次第に集中力や意欲が高まっていく現象を指します。
例えば、机に向かって文章を書こうとしたとき、最初は何を書けばよいのかわからず、なかなか筆が進まないことがあります。
ところが、思いついたことを一つ書き出してみると、次の考えが浮かんでくる。さらに書き進めるうちに、いつの間にか集中している。
皆さんにも、そんな経験があるのではないでしょうか。
部屋の片づけも同じです。始める前は面倒に感じていたのに、少し片づけてみると、ほかの場所もきれいにしたくなることがあります。
つまり、最初に必要なのは、大きな意欲ではなく、小さな行動なのかもしれません。
もちろん、作業を始めれば必ずやる気が出るわけではありません。疲労や体調、心理的な負担などによって、思うように進まないこともあります。
それでも、「やる気が出たら始める」という考え方に加えて、「始めることで、やる気が出る可能性がある」という選択肢を持っておくことには、大きな意味があると思います。

3.最初の一歩を、できるだけ小さくする
では、作業興奮を自分の日常に取り入れるには、どうすればよいのでしょうか。
私が大切だと考えるのは、最初の一歩をできるだけ小さくすることです。
例えば、読書を習慣にしたいなら、「毎日30分読む」と決めるのではなく、まずは本を開いて一ページだけ読む。
運動を始めたいなら、最初から毎日30分歩こうとするのではなく、まずは靴を履いて外に出る。
文章を書きたいなら、いきなり完成を目指すのではなく、タイトルや思いついた言葉を一つだけ書いてみる。
それだけでよいのです。
重要なのは、最初から十分な成果を求めないことです。
私たちは、目標を立てるとき、つい理想的な姿を思い描きます。毎日続ける、最後までやり遂げる、きちんと成果を出す。もちろん、それらは大切なことです。
しかし、目標が大きすぎると、始める前から負担を感じてしまいます。
そこで、最初の目標を「完成させること」から「始めること」に変えてみるのです。
5分だけ取り組んでみる。それで気持ちが乗らなければ、いったん終えてもよい。もう少し続けられそうなら、そのまま続けてみる。
このような柔軟な取り組み方なら、行動への心理的なハードルを下げられます。
小さく始めることは、目標を小さくすることではありません。大きな目標に向かうために、最初の一歩を現実的な大きさにすることなのです。

4.自分を責めるより、行動しやすい環境をつくる
ここで、もう一つ考えておきたいことがあります。
何かを始められないとき、私たちは自分の性格や意志の弱さに原因を求めがちです。
しかし、行動できない理由は、それだけではありません。
何から手をつければよいのかわからない。必要な道具がそろっていない。作業に時間がかかりそうで気が重い。失敗したくないという気持ちが強い。
こうした状況が、行動を妨げている場合もあります。
それならば、自分を責めるよりも、行動しやすい環境を整えるほうが建設的ではないでしょうか。
本を読むなら、目につく場所に本を置いておく。運動をするなら、前日に着替えを準備しておく。文章を書くなら、パソコンを開き、書き始めるテーマを決めておく。
始めるまでに必要な手間を減らしておけば、行動に移りやすくなります。
また、できたことを自分で認めることも大切です。
たとえ5分しか取り組めなかったとしても、「今日は始めることができた」と考える。できなかったことばかりに目を向けるのではなく、できたことにも目を向けるのです。
こうした小さな積み重ねが、次の行動につながる可能性を高めてくれます。
ただし、休息が必要なときまで無理をする必要はありません。作業興奮は、自分を追い込むための方法ではなく、自分を上手に動かすための工夫として活用したいものです。

5.人生を変えるのは、大きな決意だけではない
私は、この作業興奮という考え方は、日常の仕事や勉強だけでなく、人生のさまざまな場面にも通じるものだと思います。
新しいことを学びたい。社会のために何かをしたい。今までとは違う生き方を考えてみたい。
そうした思いを持っていても、実際に行動するとなると、簡単ではありません。
何から始めればよいのか。自分にできるのか。失敗したらどうするのか。考えれば考えるほど、最初の一歩が遠くなってしまうこともあります。
しかし、すべての準備が整うのを待っていたら、いつまでも始められないかもしれません。
社会貢献に関心があるなら、まずは身近な人の話を聞いてみる。新しい分野を学びたいなら、関連する記事を一つ読んでみる。誰かとのつながりをつくりたいなら、自分から挨拶をしてみる。
その小さな行動が、新しい関心や出会いを生み、次の行動につながることがあります。
もちろん、すべてが思い描いたとおりに進むわけではありません。それでも、行動したからこそ得られる経験や気づきがあります。
そして、その経験が自分の考え方を変え、次の一歩を後押ししてくれることもあるでしょう。
人生は、大きな決意をした瞬間だけに変わるのではありません。日々の小さな行動の積み重ねによって、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

6.まずは、今日の小さな一歩から
やる気が出ないとき、無理に気持ちを奮い立たせようとする必要はありません。
まずは、自分ができそうなことを一つだけ選んでみる。
本を一ページ読む。机の上を少し片づける。気になっていたことを5分だけ調べる。誰かに連絡をしてみる。
それだけでも、何もしなかった昨日とは違う一日になります。
作業興奮という考え方が教えてくれるのは、意欲が行動の前提条件とは限らないということです。
やる気が出たら始めるのではなく、始めることで、やる気が生まれることもある。

この発想を知っているだけでも、何かを始めるときの気持ちは少し変わるのではないでしょうか。
大切なのは、自分に過度な期待をかけることでも、自分を厳しく責めることでもありません。
自分の状態を理解し、無理のない一歩を考え、まずは動いてみることです。
もし今、やってみたいのに始められないことがあるなら、今日、その最初の一歩だけ踏み出してみませんか。
大きな一歩でなくても構いません。
未来を変えるきっかけは、案外、小さな行動の中にあるのかもしれません。

