
現代社会において「パラレルキャリア(複線的なキャリア)」という概念が注目を集めています。これは、現在の本業を持ちながらも、副業やボランティア活動、趣味を活かした活動など、複数の役割やキャリアを並行して展開する生き方のことを指します。経済的な理由から副業を始める人もいれば、自らのスキルを広げたい、あるいは社会貢献をしたいという動機で取り組む人も少なくありません。パラレルキャリアを意識することが、個人のスキルアップや自己効力感を高める点においていかに有効であるかを考察いたします。

1.変化の激しい時代とキャリア観の変容
高度経済成長期の日本では、終身雇用制度の下で一つの企業に長年勤め上げることが「安定」とされてきました。しかし現在は、テクノロジーの進化、グローバル化、経済の不確実性などにより、一社で一生働くことが難しくなってきております。転職が一般化し、副業解禁の動きも後押しとなり、「複数のキャリアを持つこと」が現実的な選択肢となりました。
また、労働人口の減少や高齢化といった社会的課題も、私たちに柔軟な働き方や多様な役割の持ち方を求めています。こうした中、パラレルキャリアは「自らの生き方を能動的にデザインする手段」として、個人にとっても組織にとっても意味を持ち始めています。

2.スキルアップの観点からの有効性
パラレルキャリアの大きな利点の一つは、複数の分野で実務経験を積むことによってスキルの幅が広がるという点です。本業では得られないスキルを副業やプロボノ活動で補完することが可能であり、これが本業に好影響をもたらすケースも多々見受けられます。
例えば、IT企業で働くエンジニアが、週末にNPOの活動に関わることで、プレゼンテーション能力やチームマネジメント力を鍛えられることがあります。また、教育系の副業に携わることで、論理的思考や対話力が高まり、それが本業でのクライアント対応力にも還元されることがあります。
このように、異なる現場に身を置くことで、自分の枠を越えた多様な視点を獲得することができ、結果として本業でも新しい発想や付加価値を生み出せるようになるのです。

3.自己効力感の向上
パラレルキャリアがもたらすもう一つの重要な価値は、自己効力感の向上です。自己効力感とは、「自分は目標を達成できる」という感覚のことで、心理学者バンデューラによって提唱されました。この感覚が高い人は、困難な課題にも前向きに取り組み、結果として自律的な行動をとりやすくなります。
パラレルキャリアの活動において、自分のアイデアが受け入れられたり、誰かの役に立てたりといった経験を積み重ねることで、「自分は社会に貢献できる存在なのだ」という肯定感が育まれます。このことは、自己肯定感とも密接に関係しており、特に本業で評価が得られにくい状況にある人にとっては、パラレルキャリアが精神的な支えになることも少なくありません。
また、他者との新しいつながりや、未知の領域への挑戦を通じて「自分にはこんな可能性もあったのか」と新たな自己発見を得ることができ、それがさらなる挑戦への意欲へとつながっていきます。

4.リスク分散と生き方の多様性
さらに、パラレルキャリアはリスク分散の観点からも重要です。今の職場が将来的にどうなるかわからない時代において、一つの仕事に全てを依存することはリスクを伴います。その点で、複数の収入源や経験値を持つことは、万一の備えとなります。
また、人生100年時代といわれる中で、一つの職業だけでキャリアを終えるという考え方は、現実的ではなくなっています。人生の各ステージに応じて、自分の関心や体力、家庭環境に合った活動を選択していくためにも、パラレルキャリア的な発想は有用です。
一方で、複数の活動を並行するには時間管理や健康管理も重要になりますし、すべてを中途半端にしてしまうリスクもあります。そのためには、自らの目的意識を明確に持ち、「何のためにそれをやるのか」という軸をしっかり定めておくことが必要です。

5.社会全体への波及効果
個人にとってのメリットに加えて、パラレルキャリアは社会全体にも良い影響を与えます。たとえば、本業以外の場で人々が持つ知識やスキルが社会活動や地域活動に活かされれば、それは地域の活性化にもつながります。また、企業側にとっても、社員が外部の活動で得た知見や人脈が本業に還元されれば、組織の成長にも寄与することになります。

さらに、個々人が自分の意思で人生の舵を取るようになることで、働くことへの意識や生きがいも変わってきます。それは、単なる「労働」ではなく、「自分らしく生きること」そのものになるのです。

まとめると・・
以上のように、パラレルキャリアを意識することは、単なる副収入の確保を超えて、自身のスキルアップや自己効力感の向上、生き方の多様性を促す極めて有効な手段であるといえます。現代という不確実な時代において、柔軟にキャリアを設計し、社会との幅広い接点を持つことは、私たちがより豊かに、そして幸せに生きていくための鍵となるでしょう。
今後ますます、個人の生き方が多様化する中で、パラレルキャリアは新しい「当たり前」として定着していくことが期待されます。そしてそれは、働き方だけでなく、人生そのもののあり方をも問い直す契機となるのではないでしょうか。そのように思います。