
〜「長生き」よりも「元気で生きる」ことの意味〜

はじめに
私たちは現代において、かつてないほどの長寿社会を迎えています。日本の平均寿命は年々延び、女性ではおよそ87歳、男性ではおよそ81歳となっており、世界的に見ても非常に長寿な国の一つです。しかし、この「長寿」の実態を少し深掘りしてみると、そこには意外な側面が隠されています。それは、平均寿命が延びていても、必ずしもその間ずっと「元気に暮らしているわけではない」という現実です。
健康寿命の意味とその重要性について、あまり意識されてこなかった方々にも理解していただけるよう、わかりやすく私なりに説明させて頂きます。

健康寿命とは何か?
健康寿命とは、「健康上の問題がなく、日常生活を自立して送れる期間」のことを指します。たとえば、重い病気やけが、または認知症や寝たきりといった状態になると、日常生活を自分の力で送ることが難しくなります。そうした状態になる前までの「元気に過ごせた期間」が健康寿命なのです。
厚生労働省の発表によると、2022年時点の日本人の健康寿命は、女性で75歳程度、男性で72歳程度とされています。これはつまり、平均寿命との差である10年前後の期間、多くの人が何らかの不自由を抱えて生活しているということを意味します。

なぜ健康寿命を意識することが大切なのか?
まず第一に、自分自身の「生活の質(QOL)」が大きく左右されるからです。長生きしても、身体が思うように動かず、食べたいものが食べられず、行きたい場所にも行けない生活が続くと、どうしても気持ちは塞ぎがちになります。また、病気がちになると通院や服薬が日常化し、生活そのものが制限されてしまいます。
第二に、家族や周囲の人たちへの影響も見逃せません。介護が必要になると、身近な家族がその役割を担うことが多くなります。介護は精神的・肉体的な負担が大きく、仕事を辞めたり、人生設計を変更せざるを得ないケースもあります。自分が健康でいることは、家族を守ることにもつながるのです。
第三に、社会全体への影響もあります。高齢化が進む日本において、医療や介護の費用は増加傾向にあり、国や自治体の財政にも大きな負担を与えています。一人ひとりが健康寿命を延ばすことを意識すれば、結果的に社会保障の持続性にも寄与するのです。

今からできること〜健康寿命を延ばす習慣〜
健康寿命は、生まれつきの体質だけで決まるものではありません。日々の生活習慣の積み重ねによって、大きく左右されます。つまり、誰もが今日から意識を変えることで、未来をより良いものにすることができるのです。
(1)適度な運動
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲での運動を日常に取り入れることが重要です。特に、筋肉や関節をしっかり使うことで、転倒予防や認知機能の維持にもつながります。
(2)バランスのとれた食事
好きなものばかりに偏らず、野菜や魚、たんぱく質を意識的に摂取することが大切です。塩分や糖分の摂りすぎにも注意しましょう。
(3)質の良い睡眠
寝不足は体調を崩す原因となり、免疫力の低下や認知機能の低下にもつながります。規則正しい生活リズムを保ち、十分な休息をとりましょう。

(4)社会とのつながり
健康は身体だけの問題ではありません。孤独や孤立は、心の健康をむしばみ、認知症のリスクも高めます。友人との会話や地域の活動に参加することなど、人とのつながりを持つことは、心身の健康を保つうえで非常に大きな役割を果たします。
意識を変える第一歩
多くの人が、「健康のありがたさ」は失って初めて気づくといいます。しかし、そうなる前に気づければ、人生の後半をより豊かに、自分らしく過ごすことができます。特に今は、人生100年時代ともいわれ、65歳以降にも30年以上の時間があることを意味しています。その長い時間を、病気とともに過ごすか、元気に活動的に過ごすかは、私たち自身の選択にかかっているのです。

まとめ
健康寿命を延ばすということは、単なる「健康づくり」にとどまらず、「自分らしい人生」を主体的に選ぶということです。誰かに管理される人生ではなく、自分で歩み、自分で選び取る人生。そのために、今日から少しだけでも意識を変えてみませんか。日々の小さな積み重ねが、10年後、20年後の「自分らしい生き方」につながります。
健康であることは、当たり前ではありません。だからこそ、今この瞬間の「元気」を大切にしながら、未来の自分を育てていくことが、何よりも大切なのです。