
1. 潮目となった2025年:トランプ再登板がもたらした分断の再強化
2025年1月のトランプ大統領の就任は、単なる政権交代以上のインパクトを持っていました。2016年に続く「ポピュリズムの再来」とも受け取られ、アメリカ国内だけでなく世界中に大きな影響を及ぼしています。
米中関係の再緊張、関税政策の転換、ウクライナ支援の方向性の変化など、「国際協調」から「自国優先」への揺り戻しが明確に現れています。このような状況の中で、人々の関心は「個人の幸福」よりも「集団の防衛」や「経済的な生存」に傾いていく傾向があります。
企業もまた、ウェルビーイングやCSRのような活動を「余裕があるときに行うもの」と捉え直し、その優先順位を下げてしまうケースが増えてきているようです。

以下は全く私見ですが、現在の状況との関係を書いてみます。
トランプ再登場がもたらす「ウェルビーイング後退」の現実
2025年1月にトランプ前大統領が再びアメリカの最高権力者として返り咲いたことは、単なるアメリカの内政問題にとどまらず、世界全体に強いインパクトを与えています。その影響は政治・経済・安全保障の分野にとどまらず、私たち一人ひとりの「幸せのかたち」=ウェルビーイングにも静かに、しかし確実に及んでいます。
まず、最も顕著な影響は「国際協調の空気の後退」です。トランプ大統領は就任直後から再び保護主義的な関税政策を打ち出し、中国やEU諸国との経済摩擦が再燃しています。加えて、ウクライナ戦争への支援に消極的な姿勢を示したことが、NATO内での不安を呼び、グローバルな安全保障への信頼が揺らいでいます。こうした情勢の中で、多くの企業や国家は「社会課題への投資」から「自国防衛と経済安定」へと舵を切り直しつつあります。

たとえば、欧州の一部企業ではESG投資(「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス/企業統治)」の三つの頭文字を組み合わせた言葉です。)を一時凍結し、防衛産業やエネルギー確保を優先する動きが報告されています。日本でも輸出入の不安定化を受けて、サステナブル経営よりもコストカットや価格競争への対策が優先され、ウェルビーイング関連部署の縮小が静かに進んでいる企業もあるようです。
また、社会の空気そのものにも変化が見られます。トランプ氏の発言はしばしば分断を煽る性質を持ち、「敵か味方か」という二極化した言論空間を生みがちです。このような風潮は人々の心理的安全性を脅かし、多様性(本邦における行き過ぎた様な多様性ではなく)や寛容性といったウェルビーイングに欠かせない価値を後退させてしまう要因となっています。
個人レベルでも、「将来が見えにくい」「社会が荒れている」といった不安感から、心身の健康を保つことが難しくなってきています。特に若者や高齢者など、社会的に不安定な立場にある人々ほど、こうした影響を受けやすい傾向にあります。
このように、トランプ大統領の再登場は、政策面・経済面・心理面にわたり、多層的にウェルビーイングの実現を困難にする状況を作り出しています。

2. 成熟社会の課題が後回しにされる現実
本来、ウェルビーイングは、物質的な豊かさをある程度達成した社会が、次に向き合うべき「成熟した課題」です。「どう生きるか」「何をもって幸せとするか」といった問いに答えるための、大切な視点であるはずです。
しかしながら、戦争や経済不安、政治の混乱などが続くと、社会全体のマインドは「成熟」から「生存」へと後退してしまいます。その結果、ウェルビーイングのようなテーマは「今はそれどころではない」とされてしまいやすくなります。
特にESGやインパクト投資、ウェルビーイング経営といった「社会的価値と経済的利益の両立」を目指す取り組みにとって、現在のような不安定な状況は逆風となります。コスト削減や人員整理が優先される中で、心の余裕が奪われていくという現実があるのです。

3. それでも「今こそ」ウェルビーイングを語る意味
このような時代背景を踏まえた上でも、私はあえて、「今こそウェルビーイングを語るべき時」であると考えています。
社会が不安定になるほど、人と人との関係は希薄になり、心の不調を抱える人も増えていきます。そうした時代に必要なのは、目に見える経済的な数字だけではなく、「信頼」や「安心感」、「つながり」といった目に見えない価値です。ウェルビーイングという視点は、そうした価値を再確認し、日常の中に取り戻すための手がかりになるものです。
また、ウェルビーイングは「社会が落ち着いてから始めるもの」ではありません。混乱の中でも、私たち一人ひとりが、今日一日をどう過ごすか、誰とどう関わるかといった小さな選択の積み重ねの中で実現していくことができます。「世界がこうだから無理」ではなく、「だからこそ、身近なところから整えていこう」という姿勢が求められているのではないでしょうか。

おわりに:草の根の啓発活動こそが未来をつくる
私たちはいま、大きな転換期に生きています。先行きが見えにくく、不安が蔓延する時代だからこそ、「幸せについて考えること」そのものが、より深い意味を持ってくるように思います。
ウェルビーイングは決してぜいたくな思想でも、流行りの概念でもありません。人が人として、よりよく生きるための根源的な問いであり、社会の持続可能性を支える柱の一つです。

だからこそ、今、必要なのは地道な啓発活動だと感じています。華やかなイベントや言葉だけではなく、生活の中の言葉でウェルビーイングを語り、目の前の誰かとその価値を分かち合っていく。そんな一歩一歩の積み重ねが、いつか社会の深いところに届く力になると、私は信じています。
