
その支援、本当に届いていますか?~難病・精神障がい・認知機能障がいと向き合う医療・ケアの現在地~

現代の医療・福祉の現場では、「本人の意思を尊重する支援」や「当事者主体」という理念が重視されるようになってきました。それは、従来の一方的・画一的な支援のあり方を問い直し、当事者の声に耳を傾けようとする大きな進展でもあると思います。しかし、こうした“理念の進化”が、現実の現場では時に予期せぬ「落とし穴」として現れてしまうことがあるのではないでしょうか。

難病、精神障がい、そして認知機能障がいという三つの異なる背景を持つ人々の現状に焦点を当て、支援の“正しさ”がすれ違いを生んでしまう構造的な課題を見つめ直す事が、今、必要であると思うのです。(あえて難病と書かせて頂きます。)
たとえば、難病を抱える方々は、進行性や希少性のために治療方針が定まらず、生活の不確実性と向き合い続けなければなりません。「あなたの選択が尊重されます」と言われても、選択肢が限られていたり、医療的知識の格差が大きかったりする中で、自己決定が重荷となる場合もあります。

また、精神障がいのある方々に対しても、「自立支援」の名のもとに、現実には十分な支えがないまま「あなたが決めるべき」と責任だけが個人に委ねられてしまうことがあります。支援者側が「押しつけにならないように」と過度に配慮するあまり、逆に声が届かなくなり、孤立が深まるケースも少なくありません。
さらに見逃してはならないのが、認知機能障がいのある方々の困難です。認知症や軽度認知障がい(MCI)を含めたこの領域では、「本人の意思を尊重する」ことと「必要な支援を差し出す」ことのバランスに、常に細心の注意が求められます。しかし現場では、「本人が嫌がるから」「本人の自由だから」として、支援が手控えられることにより、必要な安全確保や安心感の提供がなされないという場面も見られます。

このように、“本人のため”という善意が、かえって「本人を孤立させる」という矛盾を生み出す現実が、現場のいたるところで起きているように思います。しかもそれは、当事者自身だけでなく、支援を行う家族や医療・福祉職の側にも大きな心理的負担をもたらします。「どこまで関わってよいのか」「これは本当に支援なのか」──支援者の側もまた、葛藤と不安の中で模索を続けているのが実情です。

これらの問題を単なる個別事例としてではなく、「制度や文化、支援観の中に埋め込まれた構造的な課題」として捉え直す必要性があるのではないでしょうか?その上で、当事者の声や現場のリアルな体験を通じて、“善意”や“理想”がすれ違いを生んでしまう背景を掘り下げ、「本当に届く支援」とは何かを再考する必要性が求められていると、痛切に感じております。
たとえば、シンポジウムを開催し、難病や精神障がい、認知機能障がいの当事者・ご家族・支援者がそれぞれの立場から参加し、相互に学び合いながら「支援の再構築」を目指す対話を行います。医療・福祉の現場に携わる方はもちろん、支援を受ける側の視点に関心のあるすべての方にとって、新たな気づきや共感を得られる『場』となることを目指しており、それが問題意識を再確認する第一歩になると考えています。

支援とは、決して“正しさ”の押しつけではなく、目の前のその人に合った“関わり方”を探し続けること。その本質を見つめ直す時間は必要だと思います。