私達は物事を理解する時、手に入った情報を論理的に考え合わせて判断を下している訳ではありませんよね。「正確でなかってもそれほど大きく違ってはいないだろう」と、直感的や勘に頼った方法が身についているのです。これを『ヒューリスティック処理』というのですが、ヒューリスティック処理とは、問題解決や意思決定の際に用いられる簡便な方法や直感的なルール(手法)のことを指しますが、これは、厳密な論理や全ての選択肢を網羅的に検討することなく、迅速に結論を導き出すための手法で、日常的な意思決定や問題解決において頻繁に使用されてます。(無意識に使用されています。)

以下に、ヒューリスティックとその例をいくつか紹介します。

  1. 利用可能性ヒューリスティック
    人々が出来事の頻度や確率を判断する際に、その出来事を思い出しやすいかどうかに基づいて判断する傾向です。

例:ニュースで飛行機事故の報道を頻繁に目にすると、実際の頻度よりも飛行機事故が起こりやすいと感じることがあります。実際には飛行機事故の発生率は非常に低いですが、印象が強いため、飛行機に乗ることを恐れるようになる人もおられます。

  1. 代表性ヒューリスティック
    ある対象が特定のカテゴリーにどれだけ典型的か、どれだけ代表的かに基づいて判断する傾向です。

例:一人の男性が数学の教授のように見える(例えば、眼鏡をかけていて本を持っている)場合、その人が数学の教授である可能性が高いと直感的に判断することがあります。実際には、その人が数学の教授である確率は他の職業の可能性と同じくらいかもしれませんが、外見や行動が代表的であるため、そのように判断してしまいます。

  1. 固定観念ヒューリスティック
    最初に提示された情報(アンカー)に強く影響され、それに基づいて最終的な判断をする傾向です。

例:中古車を買う際に、最初に提示された価格が高いと、その後の交渉や価格設定において、その高い価格を基準に考えることがあります。結果として、実際の市場価値よりも高い価格で購入することになるかもしれません。

  1. フレーミング効果
    同じ情報であっても、それがどのように提示されるかによって判断が変わる現象です。

例:「この手術の成功率は90%です」と言われるのと、「この手術の失敗率は10%です」と言われるのでは、同じ情報であるにもかかわらず、前者の方が好意的に受け取られることが多いです。

ヒューリスティックのメリットとデメリット
メリット:
時間やリソースの節約: 複雑な計算や広範なデータ収集を必要とせずに素早く決断ができます。
実用性: 日常生活やビジネスの現場で、即座に使える実践的なツールとして役立ちます。
デメリット:
バイアスのリスク: 簡便さゆえに、誤った判断や偏見に陥るリスクがあります。
精度の低さ: 全ての情報を考慮しないため、必ずしも最適な判断を下せるとは限りません。

ヒューリスティックは、人間の脳が限られたリソースで効率よく機能するための自然なメカニズムですが、その使用には注意が必要です。適切に活用することで、日常の多くの場面で便利といえばそうなる為、自然に使われています。

ここで、エリアを狭めて『利用可能性ヒューリスティック』という、身近で使われている認知バイアスを紹介します。利用可能性ヒューリスティックは、人々がある出来事の頻度や確率を判断する際に、その出来事がどれだけ容易に思い出せるかに基づいて判断する傾向のことを指します。それは、経験や記憶に基づいて情報を処理する際に用いられる簡便な方法です。つまり、特定の出来事や情報が思い出しやすいほど、その出来事が実際に起こりやすいと感じやすくなります。

利用可能性ヒューリスティックの特徴
記憶の鮮明さ:より鮮明で印象に残る出来事ほど、容易に思い出され、頻度が高いと判断されます。
最近の経験:最近起こった出来事は記憶に新しく、思い出しやすいため、その出来事の頻度を過大評価しがちです。
感情的な影響:強い感情を伴う出来事(例えば、恐怖や喜び)は、通常の出来事よりも記憶に残りやすく、その頻度や重要性が高く評価されます。

具体例
ニュースと犯罪率:ニュースで凶悪犯罪の報道が多いと、その地域での犯罪率が実際よりも高いと感じることがあります。実際の統計データを確認すると犯罪率は低い場合でも、印象に残るニュース報道の影響で過大評価してしまうケースがあります。
飛行機事故と自動車事故:飛行機事故のニュースは大きく報道されるため、人々は飛行機事故のリスクを過大評価しがちです。しかし、統計的には自動車事故の方が圧倒的に多いのです。このように、飛行機事故の印象が強いために、飛行機に乗ることを避ける人もいます。
宝くじの当選:宝くじに当選した人の話を聞くと、その出来事が記憶に強く残り、宝くじに当たる確率を実際よりも高く感じることがあります。実際の当選確率は非常に低いのに、身近で起きた成功例が強く印象に残るためです。
利用可能性ヒューリスティックの影響
意思決定の偏り:直感的に思い出しやすい情報に基づいて判断するため、統計的データや客観的な情報に基づく判断が難しくなります。
感情的反応の強化:感情的に強い出来事は特に思い出しやすいため、そのような出来事が意思決定に過度に影響を及ぼします。
テロ事件と旅行の安全性:ある国でテロ事件が起こり、それが大々的に報道されると、その国を訪れる旅行者は減少することがあります。テロ事件の報道が強く印象に残るため、その国全体が非常に危険だと感じるのです。実際には、テロの発生は非常に稀で、その国の多くの地域は安全である場合でも、報道の影響で過度に恐れることになります。


病気のリスクとメディア報道例:メディアで新しい感染症が報道されると、人々はその病気に感染するリスクを過大評価しがちです。例えば、鳥インフルエンザやエボラ出血熱などのニュースが広まると、その感染率が非常に低い場合でも、多くの人がその病気に対して過度に恐れを抱くことがあります。メディアでの報道頻度が高いため、実際のリスクを超えて恐怖を感じるのです。
自然災害と保険の加入:ある地域で大規模な地震やハリケーンが発生し、それが広く報道されると、その地域の住民は自然災害保険に加入する人が急増することがあります。
自然災害の記憶が鮮明であるため、将来的にも同じような災害が頻繁に起こると感じやすくなるのです。しかし、実際にはそのような大規模災害が再び起こる確率は低い場合があります。
医療処置のリスク:手術や医療処置に関する失敗例や副作用の話を聞くと、その医療処置を受けることに対して過剰に不安を感じることがあります。例えば、インターネット上で手術の失敗談を見たり聞いたりすると、実際の成功率が高くても、その処置を避けようとすることがあります。利用可能性ヒューリスティックにより、ネガティブな情報が強く印象に残るためです。
飲食店の評判:
新しく開店した飲食店について、友人や家族から「とても美味しかった」という話を何度も聞くと、その店が非常に人気であると感じ、その店に行くことを決めることがあります。逆に、「料理がひどかった」という話を聞くと、その店を避けるようになります。実際には、その店の評価は他の人々によってさまざまであり、少数の意見だけでは全体の品質を判断するには不十分です。

これらの例からわかるように、利用可能性ヒューリスティックは、個人の経験や記憶に基づいて判断を下す際に大きな影響を与えます。これにより迅速な意思決定が可能になる一方で、客観的な事実や統計データに基づかない誤った判断を引き起こすこともあります。皆さんもこれまでのご経験を今一度思い返し、今後は冷静な判断をする方が賢明ですね。勿論、私もそうします。