PTGとは・・
(宅香菜子編著(2016).PTGの可能性と課題 金子書房 引用)
PTG(Posttraumatic Growth;心的外傷後成長)は、「トラウマティック」な出来事、すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間としてのこころの成長を指します(Tedeschi & Calhoun, 1996)。約20年前にPTGの研究が始まり、用語の認知度は徐々に高まり、研究も増加してきています。危機をきっかけとした人格的な成長というテーマ自体は新しいものではなく、人類の歴史の中で、困難に遭遇したことで成長を経験した人の報告は数多くなされてきました。1990年代、アメリカを中心にこのようなテーマが「PTG」と名付けられたことで、これまでにはなかったような実証研究が積み重ねられるようになりました。このようなテーマが多く表れてきた背景に、それまでの心理学や医学が、人の「問題になっているところ、足りないところ、負の側面」に特に焦点を当ててきた反省がありました。「マイナスの部分を回復すべき」対象として人に注目するのではなく、「プラスに転じる」可能性を兼ね備えている対象として、プラスもマイナスもひっくるめて、人全体の成長・発展を理解しようとする姿勢から生まれてきたテーマです。
PTGの評価方法・・
PTGを評価するには、現在よく用いられているのが、「心的外傷後成長尺度(PTGI:Posttraumatic Growth Inventory,Tedeschi & Calhoun, 1996)」です。研究の結果、この尺度は大きく5つの因子(領域)から構成されることがわかっています。
●第1の領域は、「他者との関係」にまつわる成長です。他の人とのつながりの中で経験される成長(例えば、手を思いやる気持ちが強くなった、互いにつらいときには相手を頼ってもいいと思うようになった、など)がこの領域の例です。
●第2の領域は、その出来事をきっかけに「新たな可能性」が生まれてくるような変化です。それまで描いていた人生の道筋とは異なる方向性を余儀なくされるがゆえに、新しい可能性が開けてくるというものです。
●第3の領域は、「人間としての強さ」と呼ばれる領域です。自分を自分自身がどう捉えるかという自己認知のポジティブな変容だといえます。予測し得ないような出来事が自分に起き、それでも今、自分はまだ生きているという現実を踏まえ、自分で思っている以上に自分というのは強い面があると感じることがこの領域のPTGの例です。どん底を経験した人の強さと呼ばれることもあります。
●第4の領域は、「精神性的な変容」と呼ばれる領域です。信仰や宗教といったことについてあまり考えたことがなかった人が、それを機に考えるようになることもありえます。人間の存在、または人間の力を超えた現象や事柄に向き合うような変化もあるでしょう。生き方について、魂について、先祖とのつながりについて、死ぬということについて、思いをめぐらせることもまた、この領域のPTGの例です。
●最後に第5の領域は「人生に対する感謝」です。当たり前のように今日と変わらない明日がくると思っていた以前の自分とは異なり、平凡な毎日に感謝の気持ちが強く感じられることがあります。