
睡眠支援は休息にとどまらず、QOLを支える医療的介入であると思います。
私たち人間にとって、睡眠は生命維持に欠かせない基本的な生理現象であり、誰もが毎日経験するものであります。かつては「寝ること=休むこと」として、疲労回復や身体のリセットといった役割に限定的な捉え方をされがちでした。しかしながら、近年の研究や臨床現場における知見の蓄積により、睡眠は単なる休息を超えて、心身の健康を保ち、人生の質すなわちQOL(Quality of Life)を維持・向上させるための重要な「医療的介入のひとつ」として再評価されています。

特に、睡眠の質が心の状態と深く関係していることが注目されています。例えば、不眠が続くとイライラや不安感が強くなり、うつ病や不安障害など精神疾患のリスクが高まることが知られています。また、日中の注意力や判断力が低下することで、仕事の能率が下がるだけでなく、交通事故や家庭内事故のリスクも高まります。このように、睡眠の乱れは個人の生活全般に影響を及ぼし、ひいては社会全体の安全性や生産性にも波及します。
睡眠の重要性は、加齢や持病を抱える人々においてより顕著になります。たとえば、神経性難病や慢性疾患を持つ患者にとっては、日中の活動そのものが制限されがちであり、夜間の睡眠によって心身を回復させる時間がより一層重要になります。夜間に十分な休息が取れなければ、翌日の体調悪化や気分の不調を招き、生活全体に連鎖的な影響をもたらします。したがって、こうした人々に対しては、睡眠を「治療の一環」として捉え、積極的な介入や支援が求められます。

実体験を交えて申しますと、神経性難病を持病として持つ多くの方達は、一日の間で時間による痛みやこわばり、そして痺れ、さらには疲れの強弱が違うものなんですが、強く表れてきた時に短時間でも睡眠を取る事により回復する人達も多くおられます。まさしくこれは治療の一環と言えるでしょう。
ただし、これは決して病気を抱える人に限った話ではありません。誰しも年齢を重ねるにつれて睡眠の質が変化し、若い頃のようにぐっすり眠れないと感じるようになります。中高年層では、睡眠が浅くなり、途中で何度も目が覚める「中途覚醒」や、起床時間が早まる「早朝覚醒」などが増えてきます。こうした睡眠の変化を「老化現象」として放置するのではなく、QOLを維持する上での課題として正面から向き合うことが大切です。

現代社会では、仕事や育児、介護、SNSなど、常に何かに追われるような生活をしている人が多く、「眠らないことが頑張っている証」として評価される風潮さえ見受けられます。しかしその裏で、慢性的な睡眠不足や質の低い睡眠によって、心身が静かに蝕まれているケースも少なくありません。睡眠を単なる「贅沢」や「自己管理の範囲」と考えるのではなく、日常の健康管理の柱として認識し、必要に応じて専門的な支援を受けることは、医療的にも極めて合理的かつ有効な対応と言えるでしょう。

睡眠支援には、医療的な介入(薬物療法や睡眠時無呼吸症候群へのCPAPなど)にとどまらず、環境整備や生活習慣の見直し、メンタルヘルスケアなど、多面的な取り組みが含まれます。たとえば、就寝前のスマートフォン使用を控える、適度な運動を日中に取り入れる、静かで暗い寝室環境を整えるといった、日常的な工夫によって睡眠の質を向上させることが可能です。こうした日々の実践を通じて、医療機関に頼らずとも自らQOLを支える力を育むことができるのです。

今後の社会においては、睡眠を「自己責任の範囲」として放置せず、必要な支援を適切に受けられるような仕組みづくりが必要です。学校教育や企業研修においても、睡眠の重要性に関するリテラシー向上が求められます。とりわけ、高齢者や慢性疾患を抱える人々に対しては、個別の事情を尊重しながら、無理のない形で睡眠支援が行える体制が整えられるべきです。

睡眠は、誰にとっても平等に与えられた「健康への扉」であり、QOLの土台とも言える存在です。だからこそ、単なる休息という視点を超えて、人生を豊かに生きるための「医療的介入」として捉えることが、今の時代において必要不可欠であると、私は考えております。