
「ずぼらな自分」が無意識に実践していた心理学
~曲作りから気づいた、ツァイガルニク効果とモチベーションの関係~
1.私は、あえて途中で終わらせる
最近、私は曲作りをすることが大変面白くなっています。
自分なりにイメージした旋律を譜面に落とし込み、少しずつ曲の形にしていく。頭の中にある漠然としたイメージが、実際の音楽になっていく過程には、言葉では表現しにくい楽しさがあります。
例えば、ある旋律を思い浮かべ、4小節ほど譜面に書き込んだとしましょう。
その先の展開も、ある程度は頭の中にあります。さらに、もっと良い旋律にできるのではないかという願望もあります。
普通に考えれば、そのまま続きを作り、できるところまで完成させようとするかもしれません。
ところが、私はあえてそこで作業を終えることがあります。
次の展開をイメージできていても、あえて次回に延ばすのです。
そして、その後の1~2日間、日常生活を送りながら、ときどき頭の中で続きをイメージします。
すると、不思議なことに、次に曲作りをする時間が楽しみになってくるのです。
「早く続きを作りたい!」
そんな気持ちが自然に湧いてきます。
無理に自分を奮い立たせているわけではありません。むしろ、次に取り組むことを楽しみにしているのです。
このような進め方は仕事上でもありました。ある意味、習慣的に身についていたことと思います。

2.実は、これには心理学的な名前があった
先日、友人と話をしていたときのことです。
この曲作りの話をすると、友人が教えてくれました。
「それは、ツァイガルニク効果と言うんですよ」
私は、それまでこの言葉を知りませんでした。
ツァイガルニク効果とは、未完了の課題や中断された事柄が、意識や記憶に残りやすくなる傾向を指す心理学の用語です。
旧ソ連の心理学者ブリューマ・ツァイガルニクが研究したことから、この名前が付けられました。
例えば、途中で中断した仕事が気になったり、読みかけの本の続きを読みたくなったりすることがあります。
完了していないことが心に残り、再び取り組みたいという気持ちにつながる場合があるのです。
もちろん、未完了のことが必ず記憶に残るわけではありません。また、未完了であることが、そのままモチベーションの向上につながるとも限りません。
しかし、私の曲作りで起きていることを理解するうえでは、とても興味深い考え方でした。

3.ずぼらな性格が生み出した工夫?
ここで、私は自分自身のことを考えました。
私は基本的に、自分のことを「ずぼらな性格」だと思っています。
一度作業を終えてしまうと、次に始めるときに、気持ちを切り替えたり、改めて集中したりするのに時間がかかることがあります。
何かを始めること自体よりも、再び始めるための心理的な準備が面倒なのです。
だからこそ、これまでも、何かに取り組むときには、あえて区切りを付けすぎないようなことをしてきました。
完全に終わらせてしまうのではなく、次に取り組む余地を残しておく。
そして、次にやることが頭の中にある状態で、いったん離れる。
今回の曲作りも、その延長線上にあります。
私は心理学を学んで、その理論を実践していたわけではありません。
自分の性格を考えながら、どうすれば物事を続けやすくなるのかを、経験的に工夫していたのです。
それが、後になって心理学の言葉で説明できると知りました。
これは、私にとって小さな発見でした。

4.理論を知らなくても、人は自分なりの方法を見つけている
今回の経験から、私は一つのことを考えました。
私たちは、何かをうまく進めるための方法を、必ずしも理論から学んでいるわけではありません。
仕事でも、勉強でも、人間関係でも、実際に経験する中で、自分なりの工夫を身に付けていることがあります。
例えば、勉強をするときに、次に学ぶ内容を少しだけ確認してから終える人がいるかもしれません。
仕事を中断するときに、再開するためのメモを残しておく人もいるでしょう。
趣味で何かを作るときに、次に試したいアイデアを思い浮かべながら、いったん作業を離れる人もいるはずです。
こうした方法は、すべてがツァイガルニク効果だけで説明できるわけではありません。
次の行動を明確にすることで再開しやすくなることや、楽しみを先に残しておくことなど、複数の要素が関係していると考えられます。
それでも、自分の経験を振り返り、なぜうまくいったのかを考えることには意味があります。
そこに心理学などの知識が加われば、経験を自分だけのものにせず、他の場面でも活用できる可能性が生まれるからです。

5.自分の弱点は、工夫次第で強みに変えられる
私が今回、もう一つ面白いと思ったのは、自分の性格に対する見方です。
私は、ずぼらな性格だからこそ、再び作業を始めるときの負担を減らそうとしてきました。
しかし、見方を変えれば、それは自分の行動の特徴を理解し、継続するための方法を工夫していたとも言えます。
もちろん、ずぼらであることが、いつでも良い結果につながるわけではありません。
途中で止めたまま放置してしまえば、物事は完成しません。期限のある仕事などでは、計画的に終わらせることも必要です。
大切なのは、自分の性格を無理に否定するのではなく、その特徴を理解し、うまく付き合う方法を見つけることではないでしょうか。
例えば、始めるまでに時間がかかるなら、最初の一歩を小さくする。
集中力が長く続かないなら、短い時間で区切る。
途中で気持ちが途切れやすいなら、次に取り組みたいことを残しておく。
自分の弱点を知ることは、諦める理由を探すことではありません。自分に合った方法を見つけるための出発点にもなるのです。

6.知識を得ることで、自分の経験の意味が変わる
私は、年齢に関係なく、新しいことを学び、古い情報を書き換えていくことを大切にしています。
今回のツァイガルニク効果との出会いも、その一つです。
自分では何となく行っていたことに、心理学的な説明があると知る。それだけで、これまでの行動を違う角度から見直すことができます。
そして、自分の経験を整理することで、他の人にも役立つ考え方として伝えられるかもしれません。
ただし、心理学の理論を知ったからといって、自分の経験がすべて正しかったと証明されるわけではありません。
大切なのは、理論を自分の経験に当てはめて考え、どこが共通していて、どこに違いがあるのかを確かめることだと思います。
今回の私の曲作りも、ツァイガルニク効果そのものと完全に一致すると断定することはできません。しかし、未完了の状態をあえて残すことが、次の行動への楽しみにつながっているという点では、心理学的にも興味深い経験です。
そして、これからも曲作りを楽しみながら、自分に合った方法を試していきたいと思っています。

おわりに
今回の経験を通じて、改めて感じたことがあります。
それは、私たちは自分のことを、案外よく分かっていないのかもしれないということです。
自分では短所だと思っていた性格が、見方を変えれば工夫を生み出すきっかけになっていることもあります。
何気なく続けてきた習慣に、心理学的な意味が見つかることもあります。
だから、自分の経験を振り返り、少しだけ立ち止まって考えてみることが大切なのではないでしょうか。

新しい知識は、何も知らなかったことを教えてくれるだけではありません。
すでに経験してきたことの意味を、もう一度教えてくれることもあるのです。
皆さんにも、理論を知らずに実践していたことや、後になって「なるほど、そういうことだったのか」と気づいた経験はありませんか。
そんな何気ない経験の中にも、自分らしく生きるためのヒントが隠れているのかもしれません。
