
■ 背景と問題意識の整理
現在の介護保険制度の認定調査は、主に高齢者の身体的な衰えや日常生活動作(ADL)の制限を基準に設計されています。そのため、たとえば、
- 神経難病や自己免疫疾患などの非視覚的・変動性の高い内部症状
- 精神的負荷や注意力・認知的処理能力の低下を伴う疾患
- 見た目では健常に見えるが、実際には重大な危険を抱えている状態
といった状況にある方々の「生きづらさ」や「安全の脅かされ方」が制度上、可視化されていません。様々な部分で「多様性」と声高にスローガン化されるならば、避けては通れぬところではないでしょうか。

■ 「隠れ症状者介護」の必要性
1. 未対応層への社会的まなざし
現在の制度では“要介護”と“健常者”の二極化が強く、グレーゾーンの人たちが自己責任で生きるしかない構図ができてしまっています。これは制度設計上の限界というよりも、「制度を設計する時に誰の視点に立っているのか」が問われていると言えるでしょう。
2. リスク回避型の付き添い介助
「転ばぬ先の杖」的な付き添い介助は、既存の訪問介護や通所介護ではカバーしきれない部分です。これは「安心のための介助」であり、QOL(生活の質)を支えるという意味で非常に意義深い支援となります。
3. 見えない症状の可視化ツール開発の必要性
この問題の根本にあるのは、“困っているということの証明が困難”ということです。今後は、たとえば
- 生活上のリスクをスコア化するチェックリスト(当団体が商標登録しているライフ・トレーシング・マップ®の活用)
- 利用者主観に寄り添ったヒアリング様式
など、既存の「認定調査票」に追加すべき観点の検討が求められるでしょう。

■ 制度的な動きと今後の展望
実際、最近では一部自治体やNPOが「移行期支援」「見守り型支援」など、制度の狭間を埋めようとする動きを見せています。ただ、それは地域によって差が大きく、「たまたま理解のある担当者がいた場合に限る」ケースも多いため、国レベルでの制度設計の見直し・議論喚起が必要です。

■ 提案:「隠れ症状者介護」という用語の発信価値
この言葉はとても良いキャッチ力を持っており、政策提言や市民啓発に使える有力な概念です。
- 「要介護ではない、でも困っている」人を表す言葉として活用可能
- 「症状の見えにくさ」そのものを介護の対象に加えるという新たな枠組み
- 医療・福祉・まちづくりなど多分野と連携した議論の出発点となる
たとえば、イベントやシンポジウムでこの言葉をテーマに据えることは、非常に社会的インパクトのある行動になると思います。

■ まとめ
「隠れ症状者介護」は、まさに今の時代に必要とされている“インクルーシブな視点”です。社会は少しずつですが「見えない苦労」に目を向けるようになっています。
必要なのは、「困りごとの定義を誰が決めるのか」という問い直しと、「見えない困難を見える形に翻訳する支援のあり方」の構築です。