
あるスポーツ(格闘系)の整形外科のドクター(リングドクター)との雑談、そして勉強したことを書いてみます。
――「歩く」という、最も身近な“薬”について
近年、健康維持や生活習慣病の予防という観点から、運動の大切さが改めて見直されています。
その中でも、誰にでも取り組みやすい運動として注目されているのが「ウォーキング」です。特別な道具も施設も必要なく、靴さえあれば今日からでも始められるこの運動は、医学的にも心理的にも多くの効果を持っています。
ウォーキングに代表される有酸素運動がどのように健康へとつながるのか、その仕組みと心身への影響、そして現代人にとっての意味について考えてみたいと思います。

■ 有酸素運動とは何か
まず、有酸素運動とは何かを簡単に整理してみましょう。
有酸素運動とは、呼吸によって体内に取り入れた酸素を使い、脂肪や糖を燃やしてエネルギーを生み出す運動のことをいいます。ジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクス、そしてウォーキングなどが代表的です。
この運動の特徴は、「中くらいの強さで長く続けられる」という点にあります。息が少し弾みながらも会話ができる程度の強度が理想的です。
それに対して、短距離走や筋トレのように短時間で大きな力を出す運動は「無酸素運動」と呼ばれ、主に筋肉を鍛える効果があります。
つまり、有酸素運動は“酸素を使いながら持続的に身体を動かす”運動であり、その穏やかな刺激が体と心の両方に良い影響を与えるのです。

■ 体の中で起きている変化
ウォーキングを始めて10分ほど経つと、心拍数が上がり、血流が活発になります。これによって体のすみずみに酸素が行き渡り、細胞の代謝が高まります。
脂肪燃焼については、一般的に運動を始めて20分ほどで脂肪がエネルギー源として使われ始めるといわれています。血液中の糖分が先に消費され、その後、脂肪が分解されて燃焼するためです。ですから、「30分以上歩くと脂肪が燃える」といわれるのは、理にかなったことなのです。
また、ウォーキングを続けることで心肺機能も鍛えられます。心臓は筋肉でできており、一定のリズムで負荷をかけることで、より強く効率的に血液を送ることができるようになります。その結果、高血圧や動脈硬化といった生活習慣病の予防にもつながります。
さらに、血流の改善は脳にも良い影響を与えます。脳の血流が増えることで、神経伝達物質のバランスが整い、ストレスが和らいだり、集中力が高まったりします。
「歩くと気分がすっきりする」「アイデアが浮かぶ」と感じるのは、実際に脳が活性化している証拠なのです。

■ “歩くこと”が心にもたらす効果
ウォーキングには、体だけでなく心を整える効果もあります。
「気分が落ち込んだときに散歩をすると少し元気になる」という経験をした方も多いのではないでしょうか。
これは、歩くことで分泌されるセロトニンやエンドルフィンという脳内物質が関係しています。これらは幸福感や安心感をもたらす物質で、うつ予防やストレス緩和にも効果があるとされています。(ちなみに私は「笑うこと」も同様の効果があると思っています。)
特に朝のウォーキングでは、太陽の光を浴びることで体内時計が整い、夜の睡眠の質が向上することも分かっています。
また、一定のリズムで歩くこと自体が、呼吸法や瞑想と同じような“リズム運動”になり、精神を安定させる働きを持ちます。
歩いていると、だんだんと雑念が薄れ、心が静かになっていく――それはまるで、歩くことが自分自身との対話の時間になっているようです。忙しい現代社会では、この「心を整える時間」を意識的に持つことが、心身の健康を保つうえで非常に重要だと思います。

■ 現代人に足りない「ゆっくり動く時間」
便利な世の中になった一方で、私たちが体を動かす機会は確実に減っています。
エレベーターやエスカレーターが当たり前になり、買い物はネットで完結し、通勤は車。気づけば、1日でほとんど歩かないという人も少なくありません。
しかし、人間の体は本来「歩くようにできている」といわれます。筋肉や血管、関節、神経などの多くは、歩くことを前提に機能するように設計されているのです。
歩かない生活を続けると、筋力が落ちるだけでなく、血流や代謝、さらには脳の働きまでもが低下してしまいます。これは加齢よりも早く進行することがあるため、「使わないことによる衰え」は決して侮れません。
ウォーキングは、単なる運動ではなく、人間本来のリズムを取り戻す行為です。
スマートフォンや情報に追われる現代だからこそ、あえて“ゆっくり歩く時間”を持つことが、心と体を整えるための大切な習慣になるのではないでしょうか。

■ どのくらい歩けばいいのか
よく「健康のためには1日1万歩」といわれますが、最近の研究では“量より質”が重要だとされています。
たとえば、1日6000〜8000歩を目安に、週に数回、やや速いペースで歩くことが健康寿命の延伸に効果的だと報告されています。
大切なのは、速さや距離ではなく「無理なく続けられるペース」で歩くことです。
息が少し上がる程度の強度を意識しながら、気持ちよく歩くことが理想です。疲れを感じたら無理をせず休むことも大切です。
運動が苦手な人や久しぶりに体を動かす人は、まず10分から始めてみましょう。
昼休みに少し遠回りをする、エスカレーターの代わりに階段を使う――そんな小さな工夫を積み重ねることで、確実に体は変わっていきます。

■ “歩く文化”を取り戻す
ウォーキングは、運動であると同時に文化でもあります。
江戸時代の人々は、徒歩で長距離を移動しながら四季の移ろいや風景を楽しんでいました。俳句や和歌にも、歩くことで生まれる感性や情緒が数多く詠まれています。
現代のウォーキングも、単なる健康法としてだけでなく、「人と人、心と社会をつなぐ文化」として捉えることができます。
家族や友人と一緒に歩けば会話が生まれ、地域を歩けば街の変化や自然の美しさに気づきます。高齢者にとっては社会参加の機会になり、若い世代にとってはストレス解消や創造的な時間にもなります。
歩くという行為は、世代や立場を超えて共有できる行動です。そこには“つながり”というもう一つの健康の要素が存在しています。健康とは、体の数値だけでなく、人との関係性や心の豊かさにも支えられているのです。

■ 一歩を踏み出すことの意味
ウォーキングには即効性はありません。しかし、続けることで確実に体と心を整えてくれます。
薬のように症状をすぐに変えるものではなく、時間をかけて「健康な生き方」そのものを支えてくれる存在です。
どんな目的でも構いません。ダイエットのためでも、気分転換でも、誰かと語らう時間でも良いのです。
歩くことで体が温まり、心がやわらぎ、思考が整理されていく――その小さな積み重ねが、健やかに生きる力となっていきます。

「今日は少し歩いてみようかな」
その一歩こそが、あなたの健康を育てる第一歩です。私は約20年続けていまして、完全に生活のルーティンになっています。一日がここから始まります。
元々不摂生だったこともあり、20数年前には体重76~7キロ、血圧150~160だったのが体重62~3キロ、血圧110~125になっています。
身長は昔の日本人の平均身長の166程度です。健康に良いことを体現しております。
