『オートファジーで細胞から若返る』大阪大学教授・生命科学者である吉森 保氏のご著書のキャッチコピーです。オートファジー(Autophagy)は、細胞内の不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を分解し、リサイクルする過程のことです。オートファジーは、ギリシャ語の「auto-(自己)」と「phagy(食べる)」を組み合わせた言葉で、「自己を食べる」という意味を持ちます。これは、細胞が自らの成分を分解して再利用するプロセスを表しています。

大変難しく、「このシステム、簡単に良く分かるように説明は出来ないか?」と考えましたが、それが良く分からないので、自分の勉強の意味も兼ねて書いてみます。

隔離膜の形成: 細胞内において、損傷を受けた細胞小器官や不要なタンパク質が選択的に隔離膜(ファゴフォア)で囲まれます。
オートファゴソームの形成: 隔離膜が完全に閉じると、オートファゴソームと呼ばれる二重膜の小胞が形成されます。
リソソームとの融合: オートファゴソームがリソソームと融合し、内部の分解酵素によってオートファゴソーム内の内容物が分解されます。
分解と再利用: 分解された成分は、細胞が再利用できる形で再放出されます。これにより、細胞は新しいタンパク質や脂質を合成するための材料を得ることができます。

というプロセスなのです。すぐには理解しにくいですが、とにかく、これが細胞の『若返り』に結び付く訳です。

この領域の基礎になるのが、大隅良典氏の長年にわたるご研究です。オートファジーの研究において、日本の生物学者である大隅良典氏の貢献は非常に大きいです。大隅氏は、酵母細胞を用いた実験でオートファジーのメカニズムを明らかにしました。
大隅良典氏のノーベル賞受賞
大隅良典氏は、オートファジーの研究における業績が評価され、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の研究は、細胞生物学の基礎的理解を深めるだけでなく、今後の医学研究や治療法の開発においても大きな影響を与えるものになっています。
1992年: 大隅氏は、酵母におけるオートファジーの過程を観察し、その存在を初めて証明しました。彼は、酵母細胞を飢餓状態に置くことで、オートファジーが活性化されることを発見しました。
2000年代初頭: その後の研究で、大隅氏と彼のチームは、オートファジーに関与する遺伝子群(ATG遺伝子)を特定し、その働きを詳細に解明しました。これにより、オートファジーのメカニズムが理解されるようになり、多くの生物で共通する現象であることが確認されました。

オートファジーの意義と応用
オートファジーは、細胞の恒常性を維持し、ストレスに対する防御機構として重要な役割を果たします。以下のような点で、その意義が認識されています。
老化と病気: オートファジーの機能が低下すると、老化が進行したり、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)やがんが発生しやすくなります。
免疫系: オートファジーは、細菌やウイルスなどの病原体を除去する免疫反応にも関与しています。
治療の可能性: オートファジーを調節することで、がん治療や神経変性疾患の治療に新しいアプローチが開かれる可能性があります。(現在、研究が進んでいます。)

システムをもう少し書いてみます。

隔離膜の形成(ファゴフォア形成)
起点: オートファジーのプロセスは、細胞内で新しい膜構造である「ファゴフォア」が形成されることから始まります。これは、オートファジーの開始を調節する特定のタンパク質群(例えば、ULK1複合体やATGタンパク質)が活性化されることで誘導されます。
膜供給: ファゴフォアの膜は、細胞内のさまざまなオルガネラ(小器官)から供給されると考えられています。特に、ER(小胞体)やミトコンドリアが膜の供給源として重要です。
オートファゴソームの形成:膜の拡張と閉鎖: ファゴフォアは、標的とする損傷したオルガネラやタンパク質を取り囲むように拡張し、最終的に閉じて二重膜の小胞である「オートファゴソーム」を形成します。この過程には、ATG12–ATG5複合体やATG8(LC3とも呼ばれる)が重要な役割を果たします。
選択的オートファジー: 特定のタンパク質やオルガネラを選択的に分解する場合、選択性を持たせるために特異的な受容体タンパク質が関与します。例えば、損傷したミトコンドリアを標的とする場合、PINK1やParkinといったタンパク質が役割を果たします。
リソソームとの融合
融合: 完全に形成されたオートファゴソームは、細胞内の他の分解小器官であるリソソームと融合します。この融合により、「オートリソソーム」が形成されます。このプロセスには、SNAREタンパク質やHOPS複合体が重要です。
酵素による分解: リソソーム内には多くの加水分解酵素(プロテアーゼやリパーゼなど)が含まれており、これらの酵素がオートリソソーム内の内容物を分解します。これにより、アミノ酸や脂肪酸などの基本的な分子が生成されます。
分解産物の再利用
再利用: 分解された産物は細胞質に戻り、細胞のエネルギー供給や新しいタンパク質や脂質の合成に使用されます。この再利用プロセスは、細胞の生存や成長、修復にとって非常に重要です。


オートファジーと抗老化
オートファジーは、細胞の恒常性維持に寄与するだけでなく、抗老化の分野でも注目されています。以下の点でオートファジーが抗老化に寄与する理由を説明します。

損傷した細胞小器官の除去
ミトコンドリアの品質管理: ミトコンドリアは細胞のエネルギーを産生する重要なオルガネラ(細胞小器官)ですが、損傷したミトコンドリアは活性酸素(ROS)を過剰に産生し、細胞に損傷を与えます。オートファジーは、損傷したミトコンドリアを選択的に除去することで、細胞の健康を維持します。
細胞のクリアランス
異常なタンパク質の除去: 老化が進むと、細胞内に異常な形態を持つタンパク質や誤って折りたたまれたタンパク質が蓄積します。オートファジーは、これらの異常なタンパク質を分解することで、細胞の機能を保ちます。このプロセスは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の予防にも関連しています。
幹細胞の維持
幹細胞の老化防止: 幹細胞は新しい細胞を生み出す能力を持ちますが、老化に伴いその能力が低下します。オートファジーは、幹細胞の健康を維持し、老化による機能低下を防ぐ役割を果たします。
カロリー制限と寿命延長
カロリー制限との関連: カロリー制限は、オートファジーを活性化させることが知られており、寿命延長効果が確認されています。カロリー制限によって誘導されるオートファジーは、細胞の損傷を減少させ、健康寿命を延ばす可能性があると考えられています。これらの理由から、オートファジーの活、性化は抗老化研究において重要なターゲットとされており、新しい治療法の開発や健康寿命の延長に向けた研究が進められています。

日本は世界に稀な長寿国です。しかし、長寿を目指すのではなく『健康寿命』をのばす事が重要と思っております。私は、実父母、義父母と4人の終末期介護に関係してまいりました。実父のケースは約3年間、意識も混濁し、胃ろうによって命を繫いでいました。最後の1年間は意識は無かったです。ですので、正直に申しますと、『健康寿命』と『人の寿命』を可能な限り近づけるべきと、強く感じております。人間の尊厳という面からも、様々な意見はあるかとは思いますが、その様に思います。ですので、オートファジーの研究が前進し、健康寿命を延ばす方向に行ってくれれば、現在の社会構造までも変化をもたらす可能性もあるのではないでしょうか?。